「私は人生のあらゆる小さなことに感謝するようにしている。激しい雨が上がった後は外に出て空気を吸い、お気に入りの本の一節を読み返す。大切な人からもらった小さな宝物を手に取ることもある。こうしたささやかな行動が、この世界には素晴らしく輝かしい善が満ちあふれていることを思い出させてくれるのだ」
伝説的なミュージシャンであり俳優でもあるドリー・パートンが、がん闘病の末、8月25日にナッシュビルで死去した。80歳だった。甥のブライアン・シーヴァーが動画でこの訃報を伝えたが、これはパートンが何年も前に彼に依頼していた役割だった。
今週寄せられた追悼の言葉は、まるで天気を表現するかのようだった。晴れやかで、温かく、嫌いになりようがない、と。NPRは、このように彼女を聖人視する見方によって、彼女の原動力やビジネスの才覚が覆い隠されがちだったと指摘している。また、その日常的な手法も隠されてしまった。彼女は、そうした手法の多く(冒頭に引用した言葉など)について、2012年の著書『Dream More: Celebrate the Dreamer in You(原題)』に記している。
彼女の言葉の背景にある考え方、つまり小さなことに感謝する習慣を持つという発想はとてもシンプルだ。だが、それを実際に生き方として取り入れる人はめったにいない。
この名言が「心の知能指数(EQ)」に関わる理由
感情知性(心の知能指数:EQ)とは、対人関係や目標、仕事をより効果的に進めるために、自分自身の感情と他人の感情を認識し、理解し、管理する能力のことだ。これは以下の4つのコアスキルに分解できる。
- 自己認識(Self-Awareness):自分の感情を認識し、理解する能力。
- 自己管理(Self-Management):自分の感情をコントロールする能力。
- 社会的認識(Social Awareness):他者の感情を認識・理解し、共感する能力。
- 関係性の管理(Relationship Management):上記の各スキルを活用して、他者との関係を構築、維持、発展させる能力。
専門家は、これら4つのコア領域における自身のEQの基準値を把握するために、検証済みの自己診断を受けることを推奨している。
パートンが引用した言葉で述べている日々の感謝は、自己管理の実践にほかならない。彼女は毎朝、できる限り前向きな精神状態をつくり出そうとしていたのだ。
感謝の念を単なる「気質」と捉え、パートンのような人物は生まれつき幸福で前向きなのだと片付けるのは簡単だ。しかし、彼女が自分の精神状態を維持するためにどれほど意識的な努力を払っていたかを知れば、そうとは言えなくなるだろう。幸いなことに、これは感謝の念(ひいてはEQ)が、努力次第で実践し、向上させられるものであることを意味している。次のセクションで詳しく述べるが、研究によっても、意図的な感謝の実践を通じて自らの気質を向上させることができるというパートンの考えが裏付けられている。
感謝の実践が幸福感と前向きな姿勢をもたらす:研究が証明するパートンの考え
ロバート・エモンズとマイケル・マカラックは3つの実験を行い、被験者をランダムに分けて、感謝していること、不満に思っていること、あるいは中立的な出来事のいずれかを記録させた。予想通り、感謝を記録したグループは、前向きな姿勢を含む複数のウェルビーイング指標において、他のグループを上回る結果を示した。
ナンシー・ロスバードとステファニー・ウィルクが行った研究は、感謝を実践するのに理想的なタイミングを示唆している。コールセンターの担当者を数週間にわたって追跡調査した結果、一日の始まりにおける従業員の気分が、その日の感情のプライミング(呼び水)として機能することが明らかになった。穏やかな気分で出社した人はその状態を維持した。一方、気分が沈んだ状態で出社した人は、そこから抜け出すことができず、休憩時間が増え、生産性が10%以上低下した。
EQ戦略:パートンのように、朝一番に感謝を実践する
パートンの実践方法とこれまでの研究を踏まえ、感謝の習慣を以下のように構成することをお勧めする。
- 朝一番に行う:感謝の効果はその日一日持続することが分かっているため、早い時間帯に実践するのがよい。
- 複数の方法を組み合わせる:習慣がマンネリ化しないよう、いくつかの異なる方法を選ぶ。例えば、パートンの例のように、匂いを嗅いだり触れたりするもの、読むもの、特定の人物に関連するものなどを選ぶとよい。
- 毎日行う:感謝には一種の「相乗効果」があることが示されている。感謝を実践すればするほど、日常のあらゆる場面で感謝すべきことを見つけられるようになる。
この名言を実践に移すために
明日の朝、スマートフォンに手を伸ばす前に、用意した3つの方法のいずれかで感謝を実践してみてほしい。また、感謝の習慣は日記に書くことだけではない。パートンは外を歩いて気候や天気のわずかな変化を楽しみ、お気に入りの本を読み、友人からの贈り物を手の届く場所に置いていた。自分なりの日々の選択肢を用意し、意識的にそれらに触れるようにしよう。
(筆者注:ケビン・クルーズは、EQトレーニング企業「LEADx」の創業者兼CEO。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー著者でもある。同氏が提供する無料のEQアセスメントはこちら。心理学的に検証されており、4つのコアスキルごとにスコアが算出される)



