新興国市場は過去3年に並々ならぬプレッシャーを受けてきた。ヨーロッパにおける金融危機がアジア市場に飛び火し、最終的には新興国債券も影響を受けた。それから物価の下落、インフレの減速、更には地球温暖化に対する不安感と、マイナス要素が重なった。極めつけは、米国の連邦準備制度(FED)による金融引き締め時期を巡る不透明さだ。もっとも近では、中国経済に対する不安感も重くのしかかる。
これらほとんどが、新興国市場にとってコントロールできない要素である一方、新興国の内部にも問題はある。過去5年間で新興国が発行する債券の割合が大幅に増え、とりわけ中国で顕著である。加えて、外国人による債券の保有率が上がっていることも、新たな懸念材料となっている。実際、外国人の保有率は2014年12月時点、インドネシアで39.4%、マレーシアでは46.4%にまで達した。しかし、これらすべての懸念事項をあらいだしても、2016年は新興国債券の買い時だとOoi氏は予測する。
「マイナス要素が多かった分、新興国市場は戦略を練り直すことができた。懸念材料は確かにあるが、すでに多くの修正がなされていることからも、新興国やアジア債券は2016年に陽の目を見るだろう」。 1つ目の理由は、新興国市場の為替の大幅な対ドル安だ。Ooi氏によると、2011年比で34%の対ドル安だ。2つ目は、生活必需品の価格下落が消費需要を高めるという見方だ。3つ目は、開発途上国と新興国市場の銀行部門は健全に機能しており、新たな金融危機の可能性が薄れていることと、新たな金融危機が再燃しても市場に抵抗力がついているという点だ。最後に、新興国市場はFX取引という外的要素によっても安定性が維持できるからだ。
Ooi氏が率いるチームの見解には、アジア各国の財政状況の改善、FX取引のレベル、投資の動向、アジアの銀行におけるTier 1(中核的自己資本)の改善など、様々な裏付けがある。「新興国市場は、緩やかではあるが成長を続けており、その背景には市場の強靭さがある」と分析する。アジア市場の先行きを読むには、中国の動向を分析することが欠かせないが、その中国にも今後を楽観視する要素がある。中国経済と市場の動きは不動産市場とそれに付随する個人消費に左右されると言われるが、その中国国内の多くの都市で、不動産価格が再び上昇しているのだ。
一方でOoi氏は、各国のマーケット一つ一つを見ると、違いは鮮明だと指摘した。中国や韓国、シンガポール、タイでは、高い債券を自国通貨の高いFX取引によって補っており、結果的には黒字となり、安定した財政と金融システムを維持している。
インドやフィリピン、インドネシア、メキシコ、ポーランドは債務が少なくFX取引による利益は微々たるものだが、他に強みとなる要素をもっている。問題なのは、多額の債務を抱え、FXによる利益が低く、国家財政が赤字で、財政に問題があり、金融システムも脆弱な国だ。このグループにはロシア、トルコ、南アフリカ、マレーシアが含まれる。
アジアの国のうち最後のグループに該当するのはマレーシアだけだということは、特筆すべきである。Ooi氏は、新興国債券の中でも、アジアの債券にはとりわけ好条件がそろっているとみる。「たしかに2016年も多くの不安材料を抱えている。悲観的な見方も少しはあるだろう。でも、私の経験からいうと、悲観的になる要素があ ったら、発想を転換し、その反対になるようなチャンスや可能性を見つけに行くことだ」。