気候変動対策には、スピードの問題がある。ネットゼロ達成に必要な取り組みの多くは構造的なものだ。クリーン電力を整備し、森林破壊をなくし、送電網を拡大し、輸送と産業を電化し、サプライチェーンを変革し、低炭素製品の新市場を育てなければならない。
そのいずれも一夜にして実現するものではない。だからこそ、長期的な変革と並行して、企業と政府は今後10年の温暖化を遅らせるために今日何ができるのかを問うべきである。
その答えの1つは、驚くほど単純だ。スーパー汚染物質を削減することである。
メタン、ブラックカーボン、亜酸化窒素、一部の冷媒は、現在の温暖化のおよそ半分に関与しているにもかかわらず、二酸化炭素に向けられる関心の一部しか受けていない。その多くは大気中寿命も比較的短く、削減すれば温暖化の速度により速く影響を及ぼすことができる。二酸化炭素の影響で短期的には気温上昇が続く可能性が高いが、スーパー汚染物質の削減はその上昇幅を抑えることができる。
メタンに関する最新の世界的な評価によると、実証済みのメタン削減策を全面的に導入すれば、2050年までに約0.2℃の温暖化を回避できる可能性がある。
これは、スーパー汚染物質の削減が二酸化炭素削減の代替になるという意味ではない。両方を行う必要がある。スーパー汚染物質対策は、緊急ブレーキのようなものだと考えればよい。クリーンで電化された経済へのはるかに大きな変革を加速させる間、短期的な平均気温の上昇を鈍らせることができる手段である。
メタン対策が示す可能性
メタンは、産業革命以降の世界の気温上昇の約30%に関与している。それにもかかわらず、国際エネルギー機関(IEA)の「Global Methane Tracker」は、世界の化石燃料事業からのメタン排出が減少している兆候はないとしている。
これはとりわけ歯がゆい状況だ。問題の多くにどう対処すべきかは、すでにわかっているからである。IEAは、化石燃料由来のメタン排出の約70%は既存の技術で回避できると推計している。3500万トン超は実質コストなしで防ぐことができる。回収したガスの価値が、大気中への漏出を止めるコストを上回り得るためだ。
既存の技術により、石油・ガス企業は漏出を検知して修理し、日常的にメタンを大気放出する設備を交換し、放出またはフレア燃焼されていたはずのガスを回収できる。衛星技術によって、排出を隠すこともますます難しくなっている。IEAは、昨年、国連のメタン警報・対応システムが検知した大規模事象に各国が迅速に対応していれば、世界の石油・ガス由来メタン排出量は約600万トン少なかった可能性があると推計している。
世界のメタン排出のもう一つの主要な発生源である農業と廃棄物でも、今日利用可能な実証済みの解決策によって、メタン排出を大きく削減する機会がある。埋立地ガスの回収から、稲作における新たな栽培技術の導入まで、多くの企業がすでに行動を起こしている。ただし、これらの解決策を拡大するには、初期費用をまかない、はるかに広範に展開するための投資を増やす必要がある。
同じ原則は、ほかの強力な気候汚染物質にも当てはまる。化石燃料やバイオマスの不完全燃焼によって生じるブラックカーボンは、温暖化をもたらす汚染物質であると同時に、深刻な健康被害の要因でもある。したがって、輸送の電化や化石燃料燃焼の代替は、二酸化炭素削減と同時に、即時の大気質改善効果をもたらす。
冷却システムに使われるフッ素系ガスは、漏出すると極めて強い温暖化効果を及ぼし得る。世界中で冷房需要が高まるなか、より優れた機器、保守、冷媒管理、影響の小さい代替物の導入が一段と重要になっている。
企業は何をすべきか
企業は、自社の事業やバリューチェーンにおいてスーパー汚染物質が重要性を持つかどうかを把握し、それを移行計画に組み込むべきである。
石油、ガス、石炭企業は、回避可能なメタン漏出、大気放出、フレア燃焼をなくすべきだ。冷蔵・冷却に依存する企業は、自社の事業とサプライチェーン全体で使用されているガスを把握し、漏出を最小限に抑える必要がある。輸送・物流の規模が大きい企業は、電化を進めるなかで燃焼由来の汚染に対処できる。
短期的な温暖化を抑えるための最も速く、費用対効果の高い機会の一部は、個々の企業の直接的な管理の外側にある。埋立地や農場でのメタン削減から、冷媒漏出やブラックカーボンへの対策までが含まれる。企業は連携し、今すぐ大規模に測定可能な削減を実現できる解決策へ追加資本を振り向けることで、そのギャップを埋めることができる。
最近では、Google、Workday、Amazon、Salesforceなどの企業が、2030年までにスーパー汚染物質を削減するプロジェクトに1億ドル(約154億円)を動員する新たな取り組みを支援した。この勢いは、今年9月にニューヨークで開催されるSuperpollutants Action Summitで示されることになる。同サミットでは、短期的な気候変動対策を、温暖化とリスクの測定可能な削減へと転換することに焦点が当てられる。
政府は基準を定める必要がある
企業の自主的な行動だけでは十分ではない。政府は、実証済みの解決策を標準的な実践にする明確なルールを定める必要がある。つまり、メタン漏出、大気放出、フレア燃焼に対するより厳格な規制、冷媒や産業汚染物質に関するより強い基準、よりクリーンな輸送と産業を支える政策、そして排出量の測定と開示の改善である。
スーパー汚染物質の削減には、経済的・社会的な論拠もある。エネルギーシステムから漏れるメタンは、無駄にされた製品そのものだ。ディーゼル燃焼によるブラックカーボンには健康コストが伴う。短期的な温暖化を抑えれば、極端な暑さ、干ばつ、洪水による食料生産へのリスクも低減できる。非効率な冷却は、冷媒を漏出させるだけでなく電力も浪費する。IEAは、石油・ガス事業からのメタンを削減し、緊急時以外のフレア燃焼をなくせば、毎年約2000億立方メートルの追加天然ガスを市場に供給できる可能性があると算定している。
気候リーダーシップには2つの時計が必要だ
数週間後、ニューヨークのClimate Weekに企業と政府のリーダーが集まるとき、議論の多くが、経済とエネルギーの移行を実行するために必要な投資とシステム変革に向けられるのは当然である。
しかし、気候リーダーシップは今、2つの時計で動く必要がある。1つは、私たちの経済の構造的変革を測る時計だ。クリーン電力、電化、産業の移行、化石燃料利用の段階的な縮小と廃止である。もう1つは、その変革が進む間に悪化する気候影響を抑えるため、今後数年で何ができるかを問う時計である。
スーパー汚染物質は、その2つ目の時計に属する。私たちはすでに多くの技術を持っており、場合によっては、経済性もすでに十分に説得力を持っている。
このことは、二酸化炭素削減の重要性を少しも損なうものではない。CO₂削減と並行してスーパー汚染物質に取り組むことで、短期的な温暖化を抑え、私たちがすでに経験し始めている人的、経済的、環境的損失を減らすことができる。
1度の何分の1かがすべて重要であるとき、最速で効く気候解決策の一部を活用しない余裕はない。



