ここ2年間で相次いだ人員削減や一時解雇(レイオフ)、特に人工知能(AI)を直接の理由とするものは、極めて逆効果であることが明らかになってきた。人間の従業員を代替するためにAIを導入した組織は、期待していたような劇的な変化を実感できていない。それどころか、生産性の低下や成長機会の停滞に直面している。
反発の動きはすでに始まっている。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)誌に最近掲載された研究報告によると、「初期のAI主導の人員削減は期待通りの利益をもたらさないことが多く、組織内の知識の欠如を露呈させ、人間の監視に対する新たな需要を生み出している。その結果、一部の雇用主は方針転換を余儀なくされている」という。
職場でAIを定着させるためのはるかに生産的なアプローチは、職務を削減するのではなく、再設計することだ。同研究の著者であるバブソン大学のトム・ダベンポート、および『Transcend: Unlocking Humanity in the Age of AI(超越:AI時代に人間性を解き放つ)』の著者であるファイサル・ホーク、そして『Reimagining Government: Achieving the Promise of AI(政府の再創造:AIの約束の実現)』の著者であるポール・スケイドはそう説明する。
ほかの研究もこの事実を裏付けている。ピッツバーグ大学のマーク・マが発表した研究も、「AI主導の人員削減とそれに伴う雇用の不安定さは、AIが労働者の効率を高めるために必要な条件そのものを積極的に破壊している」と同調する。「実のところ、こうした人員削減はAIに対する従業員の感情を悪化させる。これは、AIを使用する際の企業生産性を予測する最も強力な指標の1つなのだ」
矛盾は枚挙にいとまがない。レベリオ・ラボ(Revelio Labs)による別の調査では、人員削減の理由をAIだとした企業は、過去2年間でAI関連の従業員数を11%増やしていたにもかかわらず、同業他社に比べて全体的なAI導入で遅れをとっていることが分かった。
マはその研究において、共同研究者とともに「過去5年間に米国上場企業が発表した数百件のAI投資と人員削減の発表、そして数百万件の職務満足度レビューと数千件の企業財務業績報告」を分析したと報告している。
AI投資の発表と、AIを理由とする人員削減との間には相関関係がある。「AIに巨額の投資を行った後、経営陣は強力な財務的リターンを示すよう圧力を受ける」とマらは指摘する。「経営陣が期待されるリターンを手っ取り早く実現する方法は、人員を削減し、人件費を下げることなのだ」
それでも、マらが「これら人員削減の発表に対する株式市場の反応を調査したところ、平均リターンはほぼゼロだった。AI投資の宣言が、企業の株価を持続的に押し上げるわけではない」という。
ダベンポートとHBRの共同執筆者たちは、企業がAIによる人員削減の捉え方において陥りがちな過ちについて、次のように説明している。
- 先走った削減:「多くの企業は、自社での実際の導入実績に基づくエビデンスではなく、将来的なAIの能力に関する予測や市場の噂に基づいて人員整理を行っている」
- AIの能力を理解しないままの削減:「文脈におけるAIの実力と限界を十分に理解しないまま、人員削減が行われることが多い」。ある調査では、人事責任者の55%が「AIは想定以上に人間の監視を必要としたため、人員削減の価値はなかった」と回答している。
- 社内カルチャーの悪化:「人員削減を『AIの台頭への対応』と位置づけることは、残された従業員の心理的安全性を損なう。その結果、従業員は仕事への意欲を失い、AIを活用した生産性向上の試みを避けるようになる」
AIへの移行期における組織の再考にあたっては、人員削減の目標を設定することを避けるべきだ。これには「職務をタスクに分解し、AIが真にパフォーマンスを向上させられる領域を特定し、人間とテクノロジーの最適なバランスを中心にプロセスを再設計すること」が含まれると、ダベンポートとHBRの共同執筆者たちは述べる。彼らは、AIによる人員削減の罠を回避するための指針を提示している。
- トップダウンの人員削減目標を廃止し、業務プロセスの詳細な調査に置き換える:これは「AIが真に価値を創造できる領域と、人間の能力が依然として不可欠な領域」を精査することを求めている。
- 業務の最小単位を再定義する:自動化の評価対象となる職務は、単なる定型業務よりもはるかに深い領域に及ぶ。「あらゆるレベルの労働者は通常、コミュニケーションを図り、協働し、アルゴリズム機能に落とし込むのが難しい判断を下している」と共同執筆者らは述べる。「人事責任者の3人に1人が、人員削減に伴って重要なスキルや専門知識が失われたと報告している」
- 「AI戦略」ではなく「ビジネス戦略」を構築する:「『人員を削減するためにAIに何ができるか?』という問いは、出発点として間違っている。AIは、目標を達成するために利用可能な能力全体の不可欠な一部として扱うべきだ」
- AIに「できること」を理解する:「リーダーがAIに何ができるかを理解していない場合、人員に関する意思決定をビジネスの文脈を理解していない技術チームに丸投げするか、誤った仮定に基づいて自ら意思決定を下すことになる」
- AIに「できないこと」を理解する:「一部の職能は、道徳的主体性と説明責任を必要とするため、本質的に人間にしかできない」とダベンポートらは指摘する。



