小売業界のあり方は、過去10年間でまったく異なるエコシステムへと変化した。概して、今日の消費者はオンラインから購買プロセスを始める傾向にある。ブランド側もこのことを熟知しており、多くの企業が3Dコンフィギュレーターや対話型のバーチャルアシスタントといった、AIを活用した選択肢を買い物客に提供している。
しかし、eコマースの隆盛が、人と人とのつながりの終焉を意味するわけではない。むしろ、最も成功している小売業者の多くは、先端技術を活用することで、スタッフが顧客と過ごす時間をより多く確保できると捉えている。
AIの力を借りてパーソナルな温もりを提供するというこのトレンドは、高級消費財やプレミアムサービスの分野で特に顕著になっている。それも当然だ。ある程度大きな買い物をするのに、担当者と一度も対話しないまま「イエス」と言える人は多くない。誰かと直接話すことなく家を買いたいと思う人がいるだろうか。少なくとも私はそう思わないし、そうしたこともない。もちろんオンラインで下調べはするだろうが、最終的には人からのアドバイスやサポートを求めるはずだ。
カスタマーエクスペリエンスに人間らしさをもたらす
大局的に見れば、これはテクノロジーの有無にかかわらず、カスタマーエクスペリエンス(CX)の中に人間と人間らしさを確実に残すことにほかならない。例えば、家具・インテリアデザイン分野のブランドであるScout & Nimble(スカウト&ニンブル)やBodine White(ボディン・ホワイト)は、このプロセスを実践している。最近知ったのだが、Scout & Nimbleは「Scout House(スカウト・ハウス)」と呼ばれる、実際に暮らすことのできるショーケースを構築した。これは共同創業者のジェシー・ボディンがデザインした実在の住宅であり、画面越しでは伝わらないブランドのデザイン哲学を、顧客に具体的かつパーソナルな形で体験してもらうためのものだ。
筆者にとってこれは、同社のリーダーたちが、ターゲット顧客がテクノロジーに慣れ親しんでいることを理解した上で、それに応じてマーケティングプロセスを自動化していることを示している。彼らの自動化アプローチにおいて評価できるのは、人間味ある対応の必要性を決して見失っていない点だ。
創業者の起業家夫妻、サム・ボディンとジェシー・ボディンに話を聞いたとき、あらゆるものにAIが導入される世界において、なぜ彼らがこれほどまでに顧客中心の信念に固執するのかが理解できた。サムは住宅ローン業界、ジェシーはヘルスケア業界の出身だ。彼らはこれまでのキャリアを通じて、人生で最もストレスフルかつ重大な決断(例えば、家の購入や現代医療の受診など)を下す際における、対面でのカスタマーサービスとサポートの価値を実感してきた。その結果、彼らはAIとの接点を補うための補助的な機能としてではなく、核心的なインフラ要素として、手厚い人間味のある対応を提供できるように会社を成長させた。
確かに、人間同士の関わりをビジネス資産と捉えているリーダーはボディン夫妻だけではない。百貨店ノードストロームの経営幹部もまた、人による接客をブランドアイデンティティの一部に据えている。同社は一部の領域で試験的にAIを使用しているものの、人と人との体験を高めることで差別化を図る姿勢を崩していない。
バックエンドテクノロジーで人間の対応力を強化する
ノードストロームやScout & Nimble、Bodine Whiteのような企業について、筆者が最も素晴らしいと感じるのは、AIの重要性や影響力を否定することなく、顧客とのパーソナルな関係を築くことに非常に自覚的である点だ。例えば、ボディン夫妻は消費者の一人ひとりと個別のつながりを築くことで、代々受け継がれるような品質のダイニング家具やこだわりの逸品を購入することは、単なる気まぐれな買い物ではなく「投資」であることを理解していると顧客に示している。同時に、彼らはAI製品を拒絶しているわけではない。むしろ、人間中心のミッションをサポートするためにAI製品を活用しているのだ。
好例として、Scout & Nimbleは対話をスムーズに進めるためにLive Chat(ライブチャット)を、電子メールのインターフェースにKlaviyo(クラビヨ)を、サイト内検索の強化にAlgolia(アルゴリア)を使用している。これらのAI製品を活用することで、ボディン夫妻は、商品や注文に関する問い合わせ、あるいはその他の懸念事項がある顧客に対し、順番待ちをさせられていると感じさせないようにしている。
経営陣が率先して手本を示す
顧客はこうした「昔ながらの」もてなしに好意的な反応を示すのだろうか。答えは間違いなくイエスだ。そして彼らは、単にAIや高度なテクノロジーを導入するだけでは企業の競争優位性にはならないことを証明している。競争優位性はむしろ、人間同士の関わりをさらに深めるためにAIをどう活用するかによって生まれるのだ。
要するに、これは高額な商品を購入する際に、買い手と売り手の間の信頼関係をより強固にすることにほかならない。実際に人と話すことなく、高価な衣類やオーダーメイドのインテリアデザインサービス、あるいは高級家具に投資したいと思う人はほとんどいない。
ジェシー・ボディンは、この「人間第一」の取り組みを率いることに特に情熱を注いでいる。その理由はこうだ。彼女はかつて、めったに直接顔を合わせることのない従業員チームを率いていたことがある。それでも彼女は、管理者としての人間的な要素を見失うことはなかった。そのため、テクノロジーを使ってチームメンバーと連絡を取り合いながらも、一人ひとりを個人的に深く知るよう努めた。現在、ジェシーはAIを使って自身の能力を増幅させ、すべてのクライアントやプロジェクトに対して自分らしさを最大限に発揮できるようにしている。実際、彼女とサムの2人は、最新のテックツールを単に導入するだけでなく、自社のニーズに合わせてカスタマイズすることを自らの使命としている。
人間味ある対応を可能にする
このような、パーソナライズされた手厚い顧客ケアは、高額な買い物をする富裕層をターゲットにしたブランドだけにしか関係がないと思われがちだ。しかし、それは違う。実際の人間ときめ細かく対話できることは、あらゆる顧客にとってメリットとなる。
繰り返しになるが、これはAIが役に立たないという意味ではない。事実、AIはほとんどの企業のテックスタックに組み込まれるべきものであり、筆者のビジネスでも当然活用している。しかし、顧客に対して、ボットと会話するしか選択肢がないと感じさせてはならない。人間と対話するオプションを提供することは、効率性よりもカスタマーサービスを重視している姿勢を示すことになる。その姿勢は信頼関係に大きく貢献し、いかなるAIソフトウェアの予測をも超える、売上への大きなインパクトをもたらすかもしれない。



