ミコラ・マクシメンコは、博士課程の研究のある一部分に半年ほどを費やした。ところが最近、最新の大規模言語モデル(LLM)と量子コンピューターを使えるAIエージェントが、その研究をまるごと作り直した。しかも週末のうちに。そのうえ、彼の数式の1つに誤りまで見つけた。
この出来事は、マクシメンコに大きな衝撃を与えた。
「2カ月ほど前、チームのミーティングに出て、『みんな、AGI(汎用人工知能)はもう来ていると思う』と言いました」。マクシメンコは、私のポッドキャスト「NEXT with John Koetsier」の最近の回でそう語った。
マクシメンコは量子物理学者で、量子ソフトウェアのスタートアップ、Haiqu(ハイク)の共同創業者兼CTO(最高技術責任者)である。同社は1月、プライマリー・ベンチャー・パートナーズを主導投資家として1100万ドル(約17億円)のシードラウンドを調達した。マクシメンコは誇大宣伝をするタイプではなく、AGIという言葉にもすぐに但し書きを付けた。「ある意味では、弱いAGIというべきでしょう。おそらく、完全に一貫した振る舞いをするわけではありません。それでも、すでに多くの優れたツールとして使えます」。
それでも、Haiquが取り組んでいること、つまり最先端のAIモデル、エージェント型システム、そして現世代の量子コンピューターを積み重ねる試みは、量子コンピューターが本当に役に立ち、目を見張る成果を出し、ひょっとするとゲームチェンジャーになるまでの「10年待ち」を一気に縮めるかもしれない。10年後ではなく、今日の話としてだ。
3つの技術を1つのエージェント型ループに
Haiquは5月、「エージェント型量子オペレーティングシステム」と呼ぶ製品を発表した。基本的な発想はきわめてシンプルで、いかにも現代的だ。AIのリサーチエージェントが難しい問題を小さな問題に分解し、どの量子アルゴリズムが使えそうかを見極める。次にHaiquの低レイヤーのソフトウェアを使って処理を最適化し、実際の量子ハードウェア上で実行する。
マクシメンコはその結果を「自己加速的」と呼ぶ。
「数年前まで、量子コンピューターでは何も走らせることができませんでした。基本的に、ごく小さなおもちゃのような例題だけでした。今では数百量子ビットの規模で計算を走らせています。これは最大級の古典コンピューターと同等か、わずかに劣る程度です。そしてAIの助けを借りて、新しいアルゴリズムの発見を劇的に加速できるようになりました」。
この記事の冒頭に挙げた例からもわかるように、彼がいう高速化は、わずかなものではない。
「私自身の場合、半年かかっていたものが1週間程度に短縮できると感じています」と彼は言う。このシステムを使っているある研究パートナーは、「1年かけて取り組む代わりに、2週間ほどで」「有望で非常に複雑な結果」を得ているという。
しかも、その研究パートナーにとって、それまで経験のなかった分野での成果だという。
Haiquの発表資料には、もう少し踏み込んだ主張もある。以前は「3万ドル(約462万円)と9時間以上」かかっていた分子動力学シミュレーションが、「およそ30秒、約25ドル(約3850円)」で済むようになったというのだ。独立した検証は必要だが、これは仕事の進め方、スケジュール、予算を根本から変えてしまうたぐいのコスト曲線である。
そしてその帰結として、誰がこうした高度で最先端の研究を手がけられるのかも変わる。



