経済・社会

2026.09.16 14:15

「島根県の絶滅危惧種が1.5倍に増えている」問題

島根県の中海で海藻のオゴノリを刈り取る技術を学ぶ地元の高校生(写真提供:認定NPO法人 自然再生センター)

研究者だけで自然は守れない、行き着いた「意外なアプローチ」

━━そうしたなか自然再生センターでは、どのような視点から環境保全に取り組んでこられましたか。

advertisement

私たちの団体は20年前に設立されました。当初は研究者や専門家を中心として、自然を再生するための調査・研究を主に行っていました。しかし、活動を続けていくなかで、どれだけ優れた研究成果を持っていても、研究者だけでは自然を守れないことが分かってきました。環境保全には、地域に住むたくさんの人たちが、自分ごととして関わっていくことが大切です。特に、地域住民にとって中海と宍道湖は毎日当たり前のように目にする風景であり、水の中で進む環境変化には気づきくい。そのため、当事者意識を持ってもらうことは、とても難しいのです。 

そこで注目したのが、「食」でした。食は一次産業から加工、流通、消費に至るまで、誰もが何らかのかたちで日常的に関わっているテーマです。そのため、地域のあらゆる人たちを巻き込めると考えました。いま、私たちは取り組みの一環として、「焼酎」をつくっています。

━━環境を守るために焼酎をつくるとは、ユニークな方法ですね。経緯を伺えますか。

advertisement

中海で大量発生し、ワカサギをはじめとする生物の生存を脅かしているのは「オゴノリ」という海藻です。現在は環境を壊す厄介者ですが、昭和の中ごろまでは肥料として利用されていました。人が定期的に刈り取って活用することで、湖の生態系が保たれていたのです。

私たちもそこに着目しました。現在は中海のオゴノリや水草を回収して畑の肥料にし、地元の住民とサツマイモを育て、それを原料にした「焼酎」をつくり、販売しています。

この取り組みには、地元の漁師をはじめ農家や教育機関、企業、飲食店、住民など、多様な人々が関われる仕掛けをつくっています。例えば、焼酎づくりには地元の老舗酒造に協力を仰いだほか、漁師がオゴノリを刈り取る技術を継承するため、地元の高校生が活動に参加することもあります。また、オゴノリの肥料で育てた作物を使うパン屋やカフェもあります。

このオゴノリを通じた循環と人の輪(リング)の取り組みを、私たちは「オゴノリング」と呼んでいます。オゴノリを資源として生かすことで、かつて地域にあった「自然、人、お金」の循環を再び生み出すことを目的としています。取り組みを通じて、関係者の間には強い信頼関係が生まれました。それがベースにあってこそ、環境保全の活動が持続可能になると私たちは考えています。

━━リングとしてのつながり、関係資産ができているのですね。

環境保全活動は、理想や善意だけでは持続しません。資金や人手が途切れれば活動そのものが止まってしまいます。だからこそ、「魅力的な商品を購入することが結果的に環境保全につながる」という循環(リング)をつくることが重要になります。

オゴノリの肥料で育てた作物から生まれた焼酎やパンを売ることで、次の活動資金が得られます。そして、「商品を買う」ことで誰もが環境保全に貢献できるため、地域内で活動に関わる人の輪が広がっています。

ラムサール条約には、自然環境を壊さずに恵みを持続的に活用する「ワイズユース(賢明な利用)」という考え方があります。保護か開発かという二項対立ではなく、地域資源を生かしながら、人も自然も元気になれる仕組みをつくることです。その小さな循環の積み重ねが、中海や宍道湖の生き物を守っていくと信じています。

次ページ > 厄介者を資源に——社会を変える「逆転の発想」

文=上田英司(特定非営利活動法人 日本NPOセンター 事務局次長)

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事