DeepSeek R1の「低コスト」、蒸留の実態で見え方が変わる
中国AI企業による蒸留は、単に米国AI企業から技術を取得したという問題にとどまらない。DeepSeekのR1が2025年1月に市場へ与えた衝撃を振り返ると、他社モデルの出力を利用することがAI開発費にどのような影響を与えるのかが見えてくる。
R1登場でエヌビディア時価総額が約90兆円減少
CNBCによると、2025年1月27日、エヌビディアの時価総額は1取引日で5890億ドル(約90兆1170億円)減少した。きっかけはDeepSeekのAIモデル「R1」だった。
R1は、米国の最先端AIモデルに匹敵する推論能力を、はるかに少ない訓練費用で実現したように見えた。市場は、最先端級のAIを低コストで開発できる証拠だと受け止めた。それが事実なら、高性能モデルの訓練に使われるAI向け半導体の需要も減る。モデルが安くなれば、必要な半導体も減るという見方が広がった。
米政府は蒸留で「計算資源と研究費を削減」と指摘
今回の共同勧告は、DeepSeekが開発費を抑える過程で何をしていたとみているのかを説明している。
「同社は計算資源と研究費を減らすため、特定の知識分野を狙い、他社モデルが持つ独自の機能と推論能力を抽出した」
共同勧告が対象とする時期にはR1の開発期間が含まれる。市場が2025年1月27日に評価したR1の効率の高さそのものは本物だった。ただ、その効率の一部は、R1が低コストで対抗しようとした米国モデルから得た出力によって支えられていた。
コピーする側の費用を抑えられるのは、元になるモデルの研究開発費や訓練費を別の企業がすでに負担しているからだ。元モデルを開発する企業は、高価な半導体を使ってモデルを訓練する費用を引き続き負担する。コピーする企業は、他社モデルの出力を利用することで、自社モデルに必要な計算資源や研究費を減らせる。
米政府の名指し後も、DeepSeekは新モデル投入を継続
米政府から蒸留活動を公に指摘された後も、DeepSeekによるモデル開発は続いた。DeepSeekは北京時間2026年9月10日、V4.1 Flashを公開した。DeepSeekによると、V4.1 Flashは自社のV4 Proを性能、コスト、速度で上回る。9月14日には、V4 Pro向けのすべてのリクエストをV4.1 Flashへ切り替えるとしている。
米政府が共同勧告でDeepSeekを名指ししたのは9月8日だった。DeepSeekはその2日後に新モデルを公開したことになる。


