経営・戦略

2026.09.26 09:45

AI時代をどう生き抜くか、いまリーダーが経営にダイナミズムを取り戻すためのヒント|中谷巌

企業経営や投資の世界で卓越した成果を残してきたビジネスリーダーや投資家たちは、何を拠り所に決断を重ねてきたのか。本連載では、そうしたレジェンドたちが指針としてきた「バイブル(座右の書)」に迫る。 第三回に登場するのは、経済学者として日本社会と企業経営を見つめてきた中谷 巌氏。同氏は、価値観が覆る一冊として『相対化する知性―人工知能が世界の見方をどう変えるのか』(日本評論社)を挙げた。

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AIの発展を受け、人間は「知」をどう捉え直し、意思決定に生かせばよいのか。これからの知性と経営のあり方を問う本書は、いまリーダーに求められている思想の軸を、浮き彫りにする。

AIが生む「世界認識」のパラダイム・シフト

難しかったでしょう? 私もいまだ全部を理解しているわけではなく、枕元に置いて何度も読み直しています。内容が面白いので著者の西山圭太さんには、私が主宰する「不識庵」のリベラルアーツ研修に何度も講師として来ていただきました。一度読んだくらいでは理解できない奥深さがある。何度も読んでみて著者の主張を理解できたとき、大きな気づきが得られる。そういう本だからこそ、Forbesの読者にお読みいただきたいと思ったのです。

まず、世界に強大な影響をもたらした生成AIはいかなる方法で「知」を獲得しているのか。それは人間の獲得方法とどこが違うのか。これをしっかりと理解することが重要です。AIは膨大なデータを読み込み、渉猟し、特定のパターン(特徴量)を見出すことで、何が真実かを確率論的に導き出しています。

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他方、人間はAIのようなデータ処理能力をもたないがゆえに、「論理」で世界を解明しようとしてきました。いわゆる「科学革命」を経て、人間は世界を外側から客観的に観測し、分析することで世界を「知る」ことができると信じて研究を進めてきました。いわゆる「科学主義」の考え方です。

デカルトが「我思う、ゆえに我あり」と述べ、思考する自我を認識の出発点として人間(主体)と世界(客体)を分離したように、近代における知とは、人間が世界を外側から観察し、理論を立てて解明していくものでした。あたかも人間の理性が世界(宇宙)の外にあって、そこから眺めているイメージです。

しかし量子力学やAIの出現により、人間も宇宙の内部に存在すること、そして、そのような「世界内存在」としての人間を前提としない限り、「真実」には到達できないことが明らかになりました。本書が示そうとしている中心的テーマは、ここにあります。

AIには、喜びや痛み、幸福といった主観的な経験も、意味や価値もなく、外から世界を眺める態度もない。世界に存在するデータにただ接触し、これを重層的、多面的に分析することで答えを導き出す。これまでとまったく違うアプローチで知を獲得しているわけです。ここが面白い! 知性に対する見方を根本から変えられる感覚があります。

動物をはじめとする生命体は、「外部」からの刺激を感知し、自らの生存確率を最大化する行動パターンを生み出します。その行動によって「外部」がさらに変化し、生命体の側(内部)もそれに合わせて次の新しい行動パターンを生み出していく。内と外の境界があり、内から外、外から内への入出力によってバランスがとられていく。この連続によって、世界はダイナミックに変化し続ける。

この本のユニークなところは、細胞レベルの生命活動から人間社会、AIまでもが同じメカニズムで動いており、その行動パターンは「同型」であると主張しているところです。つまり、人間だけが「特権的な存在」で、世界を客観的に外から観察し、「知」を獲得できると考えるのは錯覚であると主張しているのです。人間もダイナミックに変動する世界のなかで活動するプレイヤーであり、その活動のなかでさまざまな「真実」に出くわすことになるというわけです。従って、あることを「知る」ということと、それが「ある」ということは、同時に発生するということになります。

次ページ > 「ミクロとマクロの非対称性」という発想

文= 本田賢一朗 編集=谷本有香、大柏真佑実

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レジェンドに聞く「私のバイブルこの一冊」

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