がん治療のために開発された技術が、重度のアレルギー患者の治療にも活用できる可能性が示唆された。マウスを使ったアレルギー治療研究で、免疫反応を抑制する働きを持つ細胞を改変して活用したところ、アレルギー性の気道症状(気道反応)が軽減したことが、2026年7月に発表された最新研究で明らかになったのだ。
アレルギー反応は珍しいものではないが、人によっては危険なものとなり得る。ピーナッツや甲殻類、花粉など、多くの人にとっては無害な物質でも、かゆみやじんましん、重度の呼吸困難といったアレルギー症状を引き起こす場合がある。また、深刻なケースになると、生死にかかわるアナフィラキシー・ショックを起こす恐れもある。
現行の治療法で、アレルギー反応を軽減させることは可能だが、本来なら体が許容すべき物質なのに免疫機能が過剰に反応してしまう、という根本的な問題は必ずしも解決しない。アレルギー反応の原因物質を患者に少し与え、量を少しずつ増やしていくことで体を慣らし、免疫機能が反応しなくなるよう取り組むアレルゲン免疫療法という治療法もあるが、時間がかかる上に、どの患者にも適しているわけではない。治療法はほかにもあり、主要なアレルギー反応を阻害する抗体医薬を患者に投与するやり方もあるが、繰り返し注射を打たなくてはならない。
しかし、2026年7月に『Journal of Experimental Medicine』に掲載された研究は、これまでとは異なるアプローチに目を向けている。薬剤やアレルゲンを繰り返し投与するのではなく、患者自身の免疫細胞を治療に活用するというものだ。
これは、細胞を改変して、特定のアレルゲンを認識し、その周囲の免疫反応を抑制するようにさせるというアプローチであり、がん治療法としてよく知られている「CAR-T細胞療法」を応用している(CAR-T細胞は「キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞」の略)。マウスを用いた細胞改変実験においては、アレルゲン曝露後の炎症抑制および呼吸機能の改善が確認された。この結果は、CAR-T技術を応用して免疫寛容を誘導することにより、アレルギーを治療できる可能性を示唆している。
「がん細胞キラー」から「免疫の調整役」へ
本記事の筆者であるウィリアム・A・ヘーゼルタインが著した『CAR-T: A New Cure for Cancer, Autoimmune and Inherited Disease(CAR-T:がん、自己免疫疾患、遺伝性疾患の新たな治療法)』(未邦訳)によると、CAR-T療法の中心にあるのは、「免疫細胞には新しい指示を与えることができる」という発想だ。
CAR-T療法は、特定の血液がんの有力な治療法で、細胞を改変してプログラムをほどこし、がん細胞を見つけ出して破壊させる。同書では、CAR-Tはがん以外の疾患にも応用できる基盤になり得るとして、より幅広い可能性にも言及している。
今回の最新研究では、同じ発想をもとにしながら、細胞に別の仕事を与えた。活用したのは、標的を攻撃する免疫細胞ではなく、免疫の働きを自然にコントロールする制御性T細胞だ。これは、免疫反応が過剰になったり、その必要がなくなった後も反応が続いたりしないよう抑制する役目を持つ細胞だ。



