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2026.09.25 11:00

全国254金庫とともに、持続する地域をつくる。Face to Faceを磨く、新理事長・須藤浩の経営観

8年ぶりに信金中央金庫のトップが代わった。海外と国内の双方で経験を重ねた須藤浩は、新理事長として何を目指すのか。全国254の信用金庫を支える中央金融機関の新たな役割と、その構想を聞いた。


金利上昇局面への転換、生成AIの急速な進展、人口減少に直面する地域経済。大きな転換期のただなかで、信金中央金庫(以下「信金中金」)が8年ぶりにトップを交代した。2026年6月、新理事長に就いた須藤浩に経営のかじが託された。

信金中金は信用金庫のハブとして業界の総合力を高め、多様化、複雑化する地域や中小企業の課題解決に取り組んでいる。就任翌日、須藤は全職員へメッセージを送った。

「地域社会が豊かになって、信用金庫も持続的に成長する。その好循環をつくっていく」

須藤が見据えているのは、信金中金自身だけでなく、信用金庫とともにつくる地域の未来である。

地域を超えれば解決策が見えてくる

「信用金庫は、そんなことまでできるのですか」

自治体の首長に信用金庫の取り組みを説明すると、須藤はしばしばこう驚かれる。海外進出を目指す地域企業があれば、進出の支援から販路の開拓、現地企業とのマッチングまで手がける。

多くの人は信用金庫を「預金と融資の金融機関」だと思っているが、実際の役割はそれらにとどまらない。企業の経営相談に乗り、販路を広げ、新たなビジネス機会を生み出し、ときには海外展開まで後押しする。その幅広い機能を各地の信用金庫が担っているのだ。

そして信金中金は、ひとつの信用金庫だけでは解決できない課題を、国内外のネットワークと専門性で解決へ導く。

その力が試されたのが2024年の能登半島地震だった。輪島では漆器や箸をつくる域内の事業者が販路を失った。事業の継続すら危ぶまれる状況で、信用金庫が動く。被災地の産品を東京の信用金庫が店頭で販売し、地元の農産物をインターネットで売る仕組みを整えた。全国の信用金庫がそれぞれの地域で培った顧客とのつながりを生かし、販売先を広げたのである。

「地域は違っても、市場をつなげることはできます」と須藤は言う。信用金庫は営業エリアが限られている。だが全国をつなぐハブがあれば、支援の輪はさらに大きく広がる。被災地と消費地を結んだのは、平時から築かれていたネットワークの強みだった。

その可能性は国境をも越える。須藤が大阪支店長だったころ、当時の三重県知事とともに、三重の魅力を海外へ発信する取り組みを進めたことがある。伊勢神宮、おかげ横丁、地元の酒。豊かな資源をもちながら、認知度調査で三重県は中位にとどまっていた。

そこで地元の桑名三重信用金庫と連携し、信金中金の提携先であるタイ・バンコク銀行の富裕層の顧客を招いて、日本酒のテイスティングイベントを開いた。県の産品が、海を越えて新たな市場と出合う。国内需要が縮小するなかで、海外進出の価値は増している。

地域と地域を結び、地域と世界を結ぶ——。これまであまり知られてこなかった信金中金のひとつの顔である。

信金中央金庫 代表理事理事長の須藤浩。
信金中央金庫 代表理事理事長の須藤浩。

Face to Faceという価値を未来へつなぐ

信用金庫の価値は地域企業と向き合い、課題を解決することにある。株式会社ではなく協同組織である信用金庫は、利益の最大化を目的としない。地域が豊かになり企業が持続的に成長する環境を支えることを使命とするからこそ、顔の見える関係「Face to Face」が何よりの強みになる。須藤がAIの活用に積極的なのも、この強みを生かすためだ。

信用金庫と地域の結びつきの深さを物語るエピソードがある。

ある信用金庫が主催する年金受給者向けの旅行では、参拝者が普段は立ち入ることのできない神社の本殿に招かれ、宮司から直々に話を聞く機会があった。地元の信用金庫が長年かけて築いてきた関係資本があってこそかなう、ちょっとした非日常だ。金融商品を届けるだけでは生まれない絆が、そこにある。

「AIの恩恵を最も受けられるのは、信用金庫や中小企業だと考えています」と須藤は言う。大企業に比べ、地域金融の現場にはまだ手作業が多く残る。それだけに改善の余地も大きい。事務作業を効率化できれば、人にしかできない仕事へ、より多くの時間を振り向けられる。

すでに具体的な取り組みも始まっている。信用金庫がもつ取引データを集約した「しんきんDB」は、口座の入出金の動きから、教育資金や住宅購入といった資金需要が生じるタイミングを読み解き、営業の糸口を示す。これまで経験や勘に頼ってきた活動を、データが支える仕組みだ。

「信用金庫の本来の仕事は、事務処理ではありません。我々が果たすべきは、地元のお客様と対話を重ね、経営課題にともに向き合い、解決策を提案して伴走することです。AIを活用するのは、人が人と向き合う時間を取り戻すためなのです」

地域は「過渡期」。この先、輝きを増していく

人口減少、東京への一極集中、老朽化するインフラ。地域が抱える課題を挙げれば、きりがない。だが須藤は、それを悲観ではなく可能性としてとらえる。

「今は、過渡期なのです」

課題は、いずれ解決できる。AI、ロボティクス、自動運転といった技術が地域に実装されていけば、人手不足も移動の制約も乗り越えられる。日本は世界に先駆けて課題に直面する「課題先進国」だが、だからこそ、その解決策を世界へ示す「課題解決先進国」になれる。その解決を担うのが、地域と一心同体の信用金庫である。

ひとつの地域で生まれた成功は、同じ悩みを抱える他地域へと広がっていく。人口減少や後継者不足は土地ごとに違って見えても、根っこは共通することが多い。だからこそ、成功の共有が力をもつ。

その価値は、すでに国境を越えて注目され始めている。数年前にはインドネシアの中央銀行が、全国を結ぶネットワークを学ぶため信金中金を訪れた。地域に根差したこの仕組みは、同じ悩みに向き合う国々にとってもモデルのひとつとなりうる。

須藤が思い描く信用金庫の姿は、「空気や水のような存在」だ。単なる金融商品・サービスの提供者という枠を超え、地域の暮らしのあらゆる場面に、なくてはならないものとして寄り添う。

「地域の未来は、暗いわけじゃない。この先、もっと輝いてくるんです」

信金中央金庫
https://www.shinkin-central-bank.jp/


すどう・ひろし◎信金中央金庫 代表理事理事長。1987年学習院大学法学部卒業、全国信用金庫連合会(現・信金中央金庫)入会。国際部、市場企画部など幅広い分野に従事し、2005年信金インターナショナル(英国)代表取締役社長、13年理事 大阪支店長、18年常務理事、22年副理事長を経て、26年6月より現職。レディング大学ヘンリー・ビジネススクール経営学修士(MBA)。

Promoted by 信金中央金庫 | text by Ichiro Watanabe | photographs by Shuji Goto