30U30

2026.09.11 16:15

「やりたいことなんてなくていい」入山章栄の“生き急がない”キャリア論

早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄

事業なら失敗によって大きな損失が生まれるかもしれませんが、個人のキャリアで失敗しても、少し落ち込むくらいです。行く前にいくら調べても、本当のことはわかりません。だったら、行ってしまったほうがいい。

advertisement

キャリアに立派な理由は必要ありません。恋愛でも「なぜその人が好きなのか」と聞かれ、見た目や性格を挙げるほど、どこか嘘っぽくなる。「よくわからないけれど好き」が、一番正直ではないでしょうか。

キャリアも同じです。言語化できる理由ほど、安っぽくなることがある。「これだ」と思ったら、まずはその勘を信じて動いてみればいいんです。

AI時代こそ“戦略的いい人”でいる

日本と米国のトップエグゼクティブに、成功した理由を尋ねた調査があります。米国では「人脈」が上位に入る一方、日本では「運がよかった」が1位でした。でも、僕はこのふたつは同じことだと思っています。

advertisement

日本人は「運よくあの人に救われた」「たまたまご縁に恵まれた」と考えますが、欧米では、それを人脈を築いてきた結果と捉える。人との縁は、ただ待っていれば降ってくるものではありません。

木村先生との出会いも、もちろん運の要素は大きい。ただ、帰国したばかりで、まだ広く名を知られていたわけではない木村先生を見て「なんだかいいな」と感じ、そのゼミを選んだのは僕自身です。

自分の勘を信じて人に会い、尊敬できる人をきちんと尊敬し、敵をつくらない。僕はこれを“戦略的いい人”と呼ぶことがあります。

AI時代には、こうしたヒューマンスキルがますます重要になります。上から目線で正論を言う人より、「なぜかわからないけれど、この人を応援したい」と思われる人のほうが価値を持つ。これからは、愛される人であることが大きな強みになるはずです。

U30世代は「生き急ぐな」

今の若い世代を見ていると、素直に羨ましいと思います。社会のしがらみが減り、自由に動けるようになった。人手不足なので、若いというだけで希少です。一度会社を辞めたり、海外へ行ったりしても、いくらでもやり直せます。だから、自分がやりたいと思ったことをやればいい。

ただ、U30世代にひとつだけ伝えたいのは、「生き急ぐな」ということです。
人間は、自分の知識や認知には限界があると自覚し、学び続けなければなりません。世界は広く、自分なんて大したことはない。そう考え、自らの限界を認める姿勢は、「インテレクチュアル・ヒューミリティ(Intellectual Humility/知的謙虚さ)」と呼ばれます。

「30 UNDER 30」に選ばれることは素晴らしい。ただ、それによって「自分はもう十分にイケている」「今のままでいい」と勘違いすると、成長が止まります。成功したときほど、自分の知らない世界へ出ていく“知の探索”が必要です。

これから人間の寿命はさらに延びるでしょう。U30世代は、100年以上生きる可能性もあります。そう考えれば、30歳なんてまだ赤ちゃんのようなもの。40代、50代から好きなことを始めても遅くありません。70代だって、まだ中堅かもしれない。
同世代がキラキラして見えても、焦る必要はありません。周囲に迎合せず、自分が感覚的に「いいな」と思ったことを、理由がわからなくてもやってみる。

世界の広さを忘れず、謙虚に学びながら、好きなことを探し続ける。それが、長い人生を面白く生きるために大切なことだと思います。


入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授、早稲田大学ビジネススクール准教授を経て現職。専門は経営戦略、グローバル経営。著書に『世界標準の経営理論』など。

文=石川みく 写真=Masahiro Miki(三木 匡宏) 編集=川上みなみ

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事