木村先生は、分厚い英語の教科書や、学術誌に掲載される前の最先端の論文まで学生に読ませる。正直、論文の内容はちんぷんかんぷんでした。それでも「これが世界なんだ」と感じ、「学者になるのもカッコいい」とぼんやり思うようになった。それで、就職せず慶應の大学院へ進むことを決めました。
つまり僕は、明確な目標を定め、そこから逆算してキャリアを築いてきた人間ではありません。だからこそ若い人には、「やりたいことなんてなくていい」と伝えています。
世の中には、「成したい」「なりたい」「ありたい」という3つのタイプがいます。社会課題を解決したいという「成したい」人もいれば、医者や弁護士になりたいという「なりたい」人もいる。一方で、成し遂げたいことも、なりたいものもないけれど、「今、この瞬間をいい感じで過ごしたい」という「ありたい」人もいます。
僕は完全に「ありたい」タイプです。人生で成し遂げたいことは、今も昔もありません。大学の先生になりたいという目標は幸いにも叶いましたが、今は好きな人と好きなことをしながら、いい状態でありたいと思っているだけです。
若いうちから立派なビジョンを持たないといけない、と焦る必要はありません。「成したい」人が「ありたい」人より偉いわけでもない。自分がどのタイプなのかを知るだけで、ずいぶん楽になるはずです。
2〜3割できると思ったら、やればいい
大学院修了後は、三菱総合研究所に入社しました。当時から海外に住んでみたいという強い憧れがあり、入社2年目には「会社を辞めよう」と決意しました。そのために米国で博士号を取ろうと、働きながら受験勉強を始めました。最初は経済学の博士課程に合格しましたが、「何か違う」と進学を辞退。
そんな折、たまたま経営学の論文を読み、理論を自然言語で記述しながらデータを解析する研究手法が自分に合っていると感じて方向転換しました。しかし、翌年はすべて不合格。3度目の受験でピッツバーグ大学からオファーをもらい、ちょうど30歳で渡米しました。
なぜ、そこまで海外へ行きたかったのか。はっきり言って、理由なんてありません。ただ住んでみたかった。それだけです。
僕はいつも学生に「2〜3割できると思ったらやれ」と話しています。本当は1割でもいいと思っているほどです。


