InboxのユーザーがGmailにログインすると、次のようなポップアップメッセージが表示される。「Inboxをお試しいただきありがとうございます。利便性の向上を図るために、今後はGmailにアクセスをするとInboxにリダイレクトされます」。これは、ベータ版Inboxのアドレスである「inbox.google.com」がなくなり、Inboxが今後gmail.comに統合されることを意味する。
ユーザーがInboxをGmailに置き換えることを望まない場合、ポップアップ上の「メッセージを表示しない」をクリックすればInboxもGmailも元のドメインで使用を続けることができる。グーグルのこうした動きから2つのことが推測できる。まず、14ヶ月間の試験運用を経て、Inboxを本格展開する準備が整ったということだ。もう一つは、グーグルはInboxをGmailと別個のサービスとして展開するのではなく、InboxをGmailに置き換えようとしていることだ。
興味深いことに、グーグルはしばらく前からサービス移行を密かに進めていたようだ。通知は数ヶ月前に始まり、当初はごく少数のユーザーに絞って行っていたが、対象範囲を広げたということはレスポンスが良かったことを物語っている。
グーグルはそろそろGmailを刷新したい
グーグルのこうした動きに対し、著名な業界ウオッチャーたちが率直な疑問を投げかけている。グーグル出身のクリス・メッシーナは、Gmailに表示されるポップアップメッセージの画像をツイッターに投稿し、「Gmailの終わりの始まり?」と書いている。
現実は、恐らくその中間あたりなのではないか。Gmailはリリースから11年が経ち、9億人以上のユーザーを抱えているが、グーグルはそろそろGmailを刷新したい考えなのだろう。ユーザーデータの解析力が進化したInboxに置き換えれば、より充実した機能を搭載することが可能になる(メールに添付された写真やチケットを、メールを開く前に確認できたり、メールにメモを追加するリマインダー機能などがその一例だ)。
グーグルがこれまで機械学習を強化しながら、Gmailでそれらの機能を提供してこなかった背景には、Inboxの存在があったようだ。しかし、一方でグーグルはユーザーに対して、Inboxへの切り替えを強要することはしていない。Inboxをオプトアウトすることは簡単にでき、Inboxに統合した後でも「設定」からGmailに戻すことも可能だ。さらには、Inboxのメニューの中に「Gmailに戻す」というショートカットアイコンもある。
こうしたアプローチは、グーグルが過去に似た取組みで失敗していることを考えれば驚くに値しない。グーグルはかつて「Wave」という革新的で素晴らしい情報共有ツールを開発したが、多くの誤解を生み、サービス開始から3年後の2012年に撤退した。最大の敗因は、リリース時に盛り上げることができなかったことに加え、WaveとGmailのサービス連携が遅れ、2つの別個のアカウントを持つことをユーザーが嫌ったためとされている。
これまでのところ、グーグルはWaveで犯した過ちを繰り返していない。InboxはGmailのアカウントをそのまま使用できるし、両サービスをいきなり統合させるのではなく、今のところはInboxをGmailの代替サービスとして独立させている。しかし、グーグルはいつまでも両サービスを別個に存続させるつもりはない。例え重要なサービスであっても、ニッチなままでは継続させないのがグーグルの方針だからだ。かつて一部で人気の高かったグーグルリーダーを2013年に終了させたことからも、グーグルの強い姿勢がうかがえる。
グーグルにとって今回の取組みは大きな賭けだと言える。何故ならば、GmailアカウントはあらゆるグーグルのサービスやAndroid OSの中核を成すもので、絶対に失敗が許されないからだ。