仕事において、重要な判断を迫られたときのことについて考えてみてほしい。例えば、クライアントから明らかに間違っているメールが届いたとき、すぐに訂正すべきか、それとも一旦立ち止まってその影響を考えるべきか。あるいは、同僚がプロジェクトに影響を及ぼしかねないミスをしたとき、それを指摘すべきか、どのように、そしていつ伝えるべきか。不完全な情報に基づいて推奨事項を提示しなければならなかったり、データが別の方向を示している中で自分の直感を信じるべきか判断を迫られたりしたこともあるだろう。
こうした瞬間には、明確な指示書などまず用意されていない。状況を評価し、競合する要素を天秤にかけ、結果を予測し、経験を頼りに決断を下す必要がある。時には正しい判断を下せることもあれば、誤ることもある。しかし、向上するための唯一の方法は、起きたことを振り返り、その結果から学ぶことだ。
これまで、組織がスキルとしての「判断力」について深く考える必要はあまりなかった。しかし今、AIは組織に対し、判断力とは何か、人はそれをどう培うのかをより深く考えることを迫っている。判断力は複雑なテーマであり、多くの組織がどこから手をつければよいのか分からずにいる。本稿の目的は、まず基本に立ち返り、判断力とは何か、そしてそれをどうすれば養うことができるのかを明らかにすることだ。
判断力とは何か
かつて筆者は、判断力とは直感、あるいは時間の経過とともに養われ、他人が見落とすような洞察を生み出したりパターンを認識したりする感覚のようなものだと思っていた。それも一部ではあるかもしれないが、筆者が気に入っているのは、ロンドン・ビジネス・スクールの教授であり、判断力が開花する条件を整えるスキルや行動を研究してきたアンドリュー・リキアマン(Sir Andrew Likierman)による定義だ。彼は判断力を「個人の資質と、関連する知識や経験を組み合わせて、意見を形成し意思決定を行う能力」と定義している。具体的には、自らの判断を導くために取り入れられる重要な習慣や、培うことのできるスキルが存在する。これらの領域を具体的に実践に移せるよう、いくつかの「TNT」(tiny noticeable things:小さくとも効果的な工夫)を交えて紹介する。
優れた判断力を構成する6つの要素
リキアマンの研究によると、優れた判断力には以下の6つの要素がある。
学習(Learning):判断力の最初の要素は学習、すなわち知識の蓄積とパターンの理解である。情報を正確にインプットし、発言されたこと(および発言されなかったこと)に耳を傾け、事実に細心の注意を払うことが重要だ。これにはアクティブリスニング(積極的傾聴)が必要となる。相手の話を真剣に聞くのではなく、自分が次に何を答えるかばかり考えているような会話を経験したことはないだろうか。私たちの多くは、学ぶためではなく、議論に勝つため、あるいは問題を解決するために話を聞いてしまいがちだ。「それについてもっと詳しく教えてください」といったシンプルな切り出し方は、好奇心を刺激し、学ぶ姿勢を引き出すのに役立つ。
実務における実質的な側面を学ぶだけでなく、若手社員はクライアントの業界や好み、そしてそのリーダーたちが夜も眠れないほど抱えている課題について、あらゆる角度から学ぶべきである。
信頼関係(Trusting Relationships):アドバイスや意見を求め、観察できるような多様な人々とのつながりを持つことは、判断力を養う。オンボーディングやメンター制度は、従業員が必要なネットワークを構築するための手段であり、判断力の形成に不可欠な要素だ。ネットワークの端(エッジ)にいる、つまりつながりが限られている従業員は、離職する確率が2〜3倍高くなる。強固なつながりがなければ、重要な会話や非公式のサポート、成長の機会(これらはすべて判断力を養うために必要な要素だ)から取り残されてしまうことが多い。
経験(Experience):判断力を養うもう一つの方法は、過去の文脈を利用してパターンを見抜き、課題を認識し、進むべき道を特定することだ。筆者が弁護士として実務を行っていた頃は、そうした能力を築くまでに何年もかけることができた。しかし現在、AIはその猶予期間を大幅に短縮している。リーダーは、自らの思考プロセスや交渉のダイナミクス、クライアントとの困難な対話、戦略的トレードオフに関する議論、事後の振り返り、エスカレーションの決断などをチームのメンバーに共有していく必要がある。リーダーは、こうした領域における自身の「思考のプロセス」を、これまでよりもはるかに早い段階で示す必要があるのだ。
多くのリーダーが、判断力を養うためにテクノロジーを活用したシミュレーション(医療や軍事など、リスクが高く危険な領域で非常に有効)を試行錯誤しているが、チームが経験を積む方法は他にもある。その一つが「振り返り」を促すことだ。アフター・アクション・レビュー(AAR:事後振り返り)は、軍隊から始まったデブリーフィング(報告会)の一般的な手法であり、今日ではビジネス界でも広く利用されている。自身(およびチーム)で検討すべきいくつかの質問を紹介する。
- 意図していた成果は何だったか。
- 実際の成果は何だったか。
- うまくいったことは何か。
- 自分(たち)なら次はどのように変えるか。
新しい役職に就いたばかりであっても、これまでの人生で他のことに関して判断を下さなければならなかった経験は必ずあるはずだ。筆者は最近、大切なクライアントに対し、その組織の内部の人物との間で不快な経験をしたことを伝えるべきか思い悩んだ。過去の難しい対話の経験を思い返し、現時点でそれを持ち出すのは得策ではないと判断した。過去の経験を振り返り、何がうまくいき、何がうまくいかなかったかを特定することが大切だ。
さらに、他部門への一時的な出向、委員会へのボランティア参加、シニアリーダーへの業務内容のヒアリング、重要な案件への参加を志願すること、そして職場のビジネスプロフェッショナルと対話し、組織がテクノロジーや財務、オペレーションをどのように捉えているかを学ぶことも、経験を積むための有効な手段となる。
客観性(Detachment)──己の障害を知る:判断力のもう一つの側面は、状況を冷静に見極めるために、自身の「アイスバーグ(氷山)」や「思考のトラップ(罠)」を理解することだ。「アイスバーグ」とは、世の中がどうあるべきかについての根底にある価値観や信念のことであり、状況を正確に把握する妨げになることがある。筆者はこれを「マイルール」とも呼んでいる。このルールには往々にして「常に」「絶対に」「すべき」といった言葉が含まれる。例えば、「常に自分が主導権を握るべきだ」「すべての答えを持っていなければならない」「強い人間は助けを求めない」などがこれに該当する。アイスバーグは柔軟性に欠けることが多く、望むようなパフォーマンスを発揮したりリーダーシップを執ったりする妨げになりやすい。
さらに、結論を急ぐ、相手の心を勝手に読む(マインドリーディング)、確証バイアスに陥る、といった「思考のトラップ」を認識しなければならない。また、他者の異なる視点を排除しかねない、自分自身のフィルターや傾向にも注意を払う必要がある。コーチングのクライアントから、あえて反対意見を聞く練習や、難しい感情に対処する練習をするために、筆者に悪魔の代弁者(あえて反対の立場をとる役割)やロールプレイングの相手をしてほしいと頼まれることがよくある。
選択肢(Options):判断を迫られる場面が白黒はっきりしていることは稀である。多くの場合、複数の選択肢から選ぶよう求められる。重要なのは、提示されている以上の選択肢がないかを検討することだ。例えば、あえて何もしないことや、情報がもっと集まるまで決定を遅らせることも選択肢の一部である。さらに、斬新な解決策や過激な選択肢に伴うリスクを考慮に入れ、ルールや倫理的な問題を明確にし、その結果が人々にもたらす影響を浮き彫りにしなければならない。リーダーはこうした思考プロセスに、若手メンバーを巻き込んでいくべきだ。
実行(Delivery):最後に、優れた判断力とは、意思決定がどのように実行されるか、そして実行に伴う現実的なリスクについて慎重に考えることを必要とする。実行を円滑に進める一つの方法として、「プレモータム(事前検証)」が挙げられる。プレモータムとは、方針が失敗する可能性についてチームやグループで議論し、問題が実際に発生する前に洗い出して対処するための機会だ。
極めてシンプルに言えば、判断力を養うプロセスは次の流れに従う。
- 自分の実力を伸ばすような新しい責任を与えられる。
- 努力する。
- 成功または失敗し、フィードバックを得る。
- その経験から学ぶ。
AIがより多くの業務を代替するようになるにつれ、かつては判断力の訓練の場となっていた、若手向けの雑多で手のかかる仕事が失われつつある。AIが導入された職場において、判断力とは組織が意図的に教え、実践し、育成しなければならないスキルであり、今すぐその取り組みを始めるべきだ。
ポーラ・デイビス(Paula Davis)は、組織科学をAI時代の職場における実用的なリーダーシップやチーム向けのツールへと落とし込んでいる。2冊の著書があり、最新刊である『Lead Well: 5 Mindsets to Engage, Retain, & Inspire Your Team』は、Next Big Idea Clubによって2025年の最優秀リーダーシップ本の一冊に選出された。



