気候・環境

2026.09.10 15:15

「ワンヘルス」は世界的危機に対応する重要な合言葉。イメージ悪化に「待った」

『ワンヘルスは悪くない』。某新聞社の記事につけられたタイトルが目についた。

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制作中の映画のタイトルにも使用が予定されていたというが、福岡県の同名施策の妥当性に対する批判の高まりによって「良くないイメージに染まった」という理由から、変更を余儀なくされたという。

しかし、ワンヘルスは悪くない、まさにその通りだ。それどころか、私たちの生命を守るために、重要度を増している概念である。日本のいち地域の施策としてのよしあしがどうのという問題ではない。そのことを、強く主張しておきたい。

ワンヘルスは、人・動物・環境の健康と健全性をひとつながりのものとして捉え、守ろうとする概念だ。そもそも人が健康であろうとすれば、人と密接に関わり合う動物たちの健康はもちろんのこと、生物の多様性が維持された、豊かで健全な生態系が必要である。この概念は、2004年9月に、ニューヨークで開催された国際会議の場で「One World-One Health」として、世界で初めて提唱された。

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近年、人とペットとの関係が「使役するもの」から「家族の一員」へと変わってきたように、成熟した文化の中で人が動物や環境に向けるまなざしは、ゆるやかに変化してきた。それと並行するように、自然からの搾取や、効率を重視する資源利用がもたらした負の結果と向き合わなければならないという、切実な事態と直面する時代が到来している。ワンヘルスは、こうした時代の新たな視点として、また取り組むべき課題として存在感を放っている。

そして、早急に取り組まなければならないという危機感が存在するのも事実だ。

課題のひとつは人獣共通感染症

その一つが、人獣共通感染症の課題だ。野生動物が最初の感染源となり、猛威をふるった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)しかり、コロナ禍以降あらたに顕在化してきた重症熱性血小板減少症(SFTS:マダニが媒介)の感染拡大は、まさに人と動物、環境の三者の関わり合いの中で、私たちが直面する脅威と言える。

米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が2015年の段階で「次の数十年で1千万人以上が命を落とす災厄は、戦争ではなく感染症だ」と予測したというのは有名な話だ。そしてそれは、上記のとおり、ほぼ現実のものとなった。

開発と移動技術の発展により、本来は人と接点がないはずの野生動物が持つウイルスや細菌、寄生虫などの病原体が、人間社会に持ち出されるリスクはかねてより存在した。さらにここへ、地球温暖化による環境の変化が、病原体を伝播する生物の生息域などの生態に影響を与え始めている。一つひとつの要因は、もはや切り離して考えることはできず、大局的な視野を持って取り組まざるを得ないところまできている。

世界がワンヘルスを広め、取り組んで行こうとする気風はまた、分野のちがいを超えた協働を加速させている点も注目に値する。

これまで、データの行き来すら希薄であった人の医療と動物医療の現場などが互いの知見を共有しあい、共通の脅威である人獣共通感染症の対策と向き合おうと協力関係を強めている。当たり前のようでありながら、ハードルの高い分野横断の協調を実現させるきっかけも、「ワンヘルス」という共通の合言葉があってこそ促進されている。

イメージが悪くなろうが、そんなことは関係ない。今、世界が手を携えて取り組むべきことはまさに「One World-One Health(ワンワールド・ワンヘルス)」である。このことに間違いはない。スキャンダラスな出来事とは切り離し、「ワンヘルス」を知り、また広めてもらいたいと思う。

*ワンヘルスが取り組む課題は、人獣共通感染症だけではなく多岐にわたります。

文=西岡真由美

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