食&酒

2026.09.20 14:15

驚きのミシュラン二つ星から1年、割烹「伯雲」坂本慎吾の覚悟

割烹「伯雲」にて

割烹「伯雲」にて

ガラスのようにパリンと薄く焼き上げられた皮に、ふっくら、しっとりとした身。そんな鰻の白焼きを前菜に始まった、ある初夏の割烹料理。43歳の坂本慎吾氏が切り盛りする店、「伯雲」の献立である。

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この鰻でピンときた方は相当に日本料理を食べこんでいるに違いない。なぜなら、そこには間違いなく、師と仰ぐ「龍吟」の山本征治氏の教えが宿っているからだ。坂本氏は24歳で就職して以来、龍吟で12年以上務め上げ、2021年に「伯雲」の名で南青山で独立。オープン直後にミシュラン一つ星を得て、2025年、晴れて二つ星に昇格した。

坂本氏は、日本料理の板前を目指して辻調理師専門学校へ進学。卒業後は、知り合いの手伝いなどをしながら食べ歩きにいそしんでいた。あるとき「龍吟」を訪れ、いたく感銘を受け、私の目指す道はこれしかないと面接を申し込んだ。

「龍吟」といえば、押しも押されもせぬ三つ星、日本を代表する日本料理店のひとつである。20年前、坂本氏が就職した当時はかなり前衛的な日本料理に取り組んでいた。

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無事に採用され、翌年から雇用とあいなったとき、大晦日に呼び出された。緊迫した空気に圧倒されている姿を見た先輩達には、「あいつは年明けにはもう来ないだろう」と言われたほどだった。しかし、そんな周囲の期待を裏切り、初日の務めも無事終ると、長い修業時代が始まった。

「誰よりも怒られましたけれど、誰よりも山本氏の懐深くに入り込み、側で学ばせて頂きました」と坂本氏は言う。それが証拠に、毎日の賄はすべてつくってきたのだそう。天ぷらを所望するとなれば、天ぷら割烹よろしく、一つずつ順にねたを揚げていくこともした。

「ときにはしょっぱくて食べられないと席をあとにすることもありましたけれど、食後にあれこれ話す時間も含め、今思えば宝物のような時を過ごさせてもらったと思っています」。山本氏の信頼は絶大で、長年の勤めのなかでも後半では料理長をまかされるにいたった。

そうした濃密な12年から学んだのは「追求する心」だという。鰻一つを焼くにしても、皮をどれだけパリッと焼くことができるか、身をふっくらと焼くにはどうしたらよいのか、何方向からも異なるアプローチをしながら、頭の中に描いている頂点の鰻の焼き物へと近づけていく。

執念ともいえるべく真摯な姿勢をすぐ脇で見させてもらったのが財産だった。「ですから、今も調理をするときには、頭に描く最高峰へどのようにしてたどり着けるのかいろいろな角度から試してみるのが癖になっています」と話す。

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文=小松宏子

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