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これまでの研究では、クルミは心臓の健康に役立つことがわかっているが、それもそのはずだ。クルミに含まれるオメガ脂肪酸やその他の栄養素は、心臓を健康にすると考えられているからだ。ところが、今回の研究結果からわかったことは、これまでの研究とは少し異なっている。
クルミを食習慣に取り入れた人々の心臓はさまざまな点で健康になったが、食習慣からクルミを取り除いた人々もまた、同様の恩恵を享受したのである。クルミを食べたグループにおいて改善したのは、クルミを食べない時でも健康的な食事をしたことだけだった。つまり、健康的な食品を一つ食習慣に取り入れることは、肉体的効果のみならず心理的効果もあるようなのだ。
この実験の内容は、以下の通りである。イェール大学予防研究センターのデビッド・L・カッツ率いるチームは、112名の参加者に、食生活に56グラムのクルミを6カ月間加えさせた。その後、休止期間を置いた後で、参加者は6カ月間、クルミを意図的に食事から排除した。
加えて、それぞれのグループの半分は、健康的な栄養摂取を勧められた。すなわち、クルミを食生活に加えることによって増えるカロリーを、他の食品を減らすことによって相殺することを教えられたのである。残りの半分は、栄養に関する助言は受けなかった。
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研究チームは、各種のコレステロール、血管機能、血糖値、血圧、体脂肪、BMIを計測。クルミを食べたグループの心臓関連の数値は、栄養に関する助言を受けたかどうかに関わらず向上した。このことは、クルミにとって好ましいデータだ。だが、こうした数値は、参加者が食事からクルミを排除した時にも向上したのである。
ナッツ類が心血管等の健康に役立つことは、過去の研究によって示されていた。とくにクルミはオメガ3脂肪酸であるαリノレン酸（ALA）を豊富に含んでおり、心血管の健康に役立つと考えられている。ところが、今回の研究では、クルミを食べた時のほうが食べなかった時よりもとくに心臓に良い影響を与えたというデータは見つからなかった。
クルミを食べたグループで唯一違いが出たのは、実験期間中に参加者の食事がどのように健康的になったかという点だけだった。クルミを食べることによって、参加者は以前よりも顕著に健康的な食事を摂るようになったようなのだ。
「私達の実験の主な結果は食習慣の質であり、クルミを取り入れたグループとクルミを除外したグループの間には、はっきりした違いがありました」とカッツは語る。「一つには、クルミを毎日の食事に加えると、あまり栄養価の高くない食品がクルミに取って代わられることが挙げられます。二つ目は、食事の質が総体的に大いに高まったことです」
健康的で満腹感の高い食品を食習慣に取り入れることを要求されただけでも、人は全体的により健康な食事をしようと考えるのかもしれない。つまり、この影響の背後にあるのは、少なくともある程度は心理的な現象なのだろう。
同様に、クルミを排除したグループも、クルミを食べたグループと同じく、心臓に関して恩恵をこうむった。排除したグループもまた、自分が何を食べるかについて、普段よりもよく考えるようになったせいかもしれない。食事介入実験には、こういった現象がつきもののようだと、カッツは言う。これは、「ライフスタイル介入実験が抱える共通の問題です。ライフスタイル実験に参加する対照群の食事やライフスタイルが、図らずも改善してしまうのです」
6カ月間クルミを食べ続けても、体重が増加した参加者が一人もいなかったことも、良かった点だった。体重が増えなかったのは、クルミを食事に加えた分のカロリーを、意図的ではなかったにせよ、他の食品を減らすことで相殺したからだろう。「この実験から学ぶべきことは、日常的にクルミを食べて食習慣全般の質を改善しよう、ということです。体重が増える心配はないようなのですから」とカッツは言う。「これは多分、クルミはカロリーが高い一方で、極めて高い満腹感が得られる食品だからでしょう。カロリーに比して満腹感が高いおかげで、クルミは食欲のコントロールに役立つのです」
だから、クルミをひとつかみ食べよう。心臓の健康状態そのものは向上しなかったとしても、総じて健康な食事ができるようになるかもしれないから。それはそれで素晴らしいことだし、最終的にはあなたの健康にとってより意味のあることかもしれない。
