AI

2026.09.08 09:58

AI競争を制するのは「人」に投資する企業である理由

Adobe Stock

Adobe Stock

いま、誰もがAIツールを買い漁っている。ビッグテックのAIへの設備投資は、2027年には総額1兆ドル(約155兆円)超に達する見通しで、あらゆる役員会がAIへの同種の投資を承認している。ライセンス、プラットフォーム、GPUなど、支出こそがコスト削減とイノベーションへの進歩に等しい、という前提のもとでだ。

筆者は通信業界に身を置いている。高額なインフラで何ができ、何ができないかを100年かけて学んできた業界だ。そして、この投資ブームで浮かび上がる不都合な教訓は、すでに数字に表れている。テクノロジーは支出の中でも「安い部分」であり、どんな競合でも真似できる。実際にAIで収益を上げている企業は、人材、つまりトレーニングと組織変革に投資している企業だ。それ以外は計算能力を購入して、いつまで経っても訪れない奇跡を待っているだけである。

リターンはどこへ消えたのか

どの役員会も契約書にサインする前に見るべき数字がある。MITの研究者らによれば、企業の生成AI試験導入の95%が測定可能な投資収益をもたらせていない。モデルやインフラが貧弱だからではなく、組織的な失敗が原因だ。ツールは古いワークフローに投入され、導入は中央のラボ任せとなり、実際に仕事が行われる現場では何も変わらない。

同じ研究では、企業は生成AI予算の半分を営業・マーケティングに注ぎ込んでいる一方、最も高いリターンは地味なバックオフィス自動化に放置されていたことが明らかになった。資金は価値ではなく、派手なデモや誇大宣伝に流れたようだ。

マッキンゼーの調査も別の角度から同じことを示している。AIを利用している企業のうち、このテクノロジーによって何らかの収益面の成果を報告しているのは約39%にすぎない。

実際の価値を捉えている少数派を分けるものは、予算ではない。マッキンゼーによれば、そうした企業は、古いプロセスの一部にAIを差し込むだけでなく、ワークフロー全体を再設計している可能性が約3倍高い。同じコールセンターのスクリプトにチャットボットを継ぎ足しても、ある工程で節約された時間は周辺の工程に吸収されてしまう。損益計算書には何も届かない。

この情報は、私たちを驚かせるべきものではない。汎用技術は通常、企業が目に見えるテクノロジー支出に加えて、スキル、プロセス、組織再設計という無形投資を行って初めて効果を発揮する。その支出は貸借対照表に表れる。一方、それをうまく使いこなす能力は表れない。そして利益をもたらすのは、その能力なのである。

「人」を最優先する形とは

ボストン コンサルティング グループが提唱した比率が、筆者の業界の役員会で急速に広まっている。10-20-70ルールだ。労力の10%をアルゴリズムに、20%をテクノロジーとデータに、70%を人に投じるという内容である。ところが、典型的なAI予算の実際の配分を見てほしい。ほとんどの企業はこの比率をほぼ完全に逆転させており、それでいて試験導入が停滞する理由を訝しがっている。

この比率を正しくすることで得られる見返りも小さくない。ベイン・アンド・カンパニーは、テクノロジーと並行して労働力を近代化している企業ではEBITDAが10〜25%向上し、エンゲージメントと生産性の高い従業員を持つ企業は、エンゲージメントの低い同業他社の2倍超の株主リターンをもたらすと指摘している。エンゲージメントは人事指標のように聞こえるが、それが株価に表れるのを見れば、見方は変わる。

ワトソンの教訓

この筋書きは、以前にも大規模に上演されている。10年以上前、IBMのワトソンは地球上で最も有名なAIであり、IBMはそれが医療を変革することに数十億ドルを賭けた。テクノロジーは本物だったが、ワトソンは医師の実際の働き方には馴染まなかった。2022年までにIBMはワトソンヘルスを分割売却した。問題は機械ではなかった。人への注力が欠けていたことだ。

この崩壊は、筆者の主張の縮図である。新しい能力が確立する前に人員を削減すれば、両方を失いかねない。節約は手戻り作業に消え、AIを役立てるはずだった知識は削減とともに社外へ流出する。通信業界では、これは二重に痛い。というのも、私たちの人材は他の多くの業界より在職期間が長い傾向にあるからだ。15年にわたってネットワークの不調を見続けてきたエンジニアは、どのモデルも学習していない事柄を知っている。それをコスト項目として扱うのは、自社の学習データを削除しているようなものだ。

時計は誰にとっても刻々と進んでいる。世界経済フォーラム(WEF)は、2030年までにコア職務スキルの40%近くが変わると予想しており、大半の雇用主は従業員を再教育する意向を示している。意向は安価だ。勝者は、他の全員が来年度予算に先送りしている間に、実際にトレーニングを実行する企業になる。

次のAI投資の前に問うべき3つの質問

1. 70%(人)に資金を投じているか、それとも10%(アルゴリズム)だけか。予算がすべてライセンスとインフラで、トレーニングとワークフロー再設計のための本格的な項目がなければ、安い部分を買って決定的な部分を飛ばしていることになる。

2. 仕事を再設計したのか、それともAIを継ぎ足しただけなのか。AIからリターンを得ている少数の企業は、ツールを中心にワークフローを作り直した。失敗した多数派は、従来のワークフローにツールを投入し、今も待ち続けている。

3. これは大半の人が飛ばす質問だ。もし明日モデルが消えたとしたら、あなたの人材は1年前より有能になっているだろうか。そうでなければ、何も築いていない。デモをレンタルしただけである。

AIブームは、最も多く支出した企業ではなく、自分たちが何を買っているのかを理解した企業を選別することになる。計算能力はコモディティであり、誰もが同じツールを手に入れられる。能力は人に宿る。それは複利のように積み上がり、調達することはできない。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事