経営・戦略

2026.09.09 13:45

お菓子の会社「ICHIGO」はなぜ包丁屋を開いたのか?

ICHIGO創業者で代表取締役CEOの近本あゆみ

ICHIGO創業者で代表取締役CEOの近本あゆみ

東京・浅草の合羽橋道具街を歩くと、刃物店の店先で外国人観光客の姿が目に入る。熟したトマトや紙が、刃の重みだけでスーッと切れる──そんな日本の包丁の鋭い切れ味や職人技を写したSNS動画が世界的な和食ブームに乗って拡散され、彼らがこの街へ足を運ぶきっかけのひとつになっている。

老舗が軒を連ねる道具街で、異彩を放つ店がある。黄色を基調としたスタイリッシュな店構えに、力強いフォントで「ZAKU」と書かれたモダンなロゴ。海外向けにお菓子のサブスクリプションサービス「TokyoTreat」「Sakuraco」などを展開するICHIGOが手がける店だ。同社は3月、合羽橋にオリジナルの包丁ブランド「ZAKU」の旗艦店をオープン。すでに浅草に2号店を構え、新たに国内2店舗のオープンも予定している。

なぜお菓子を届けてきた会社が、包丁を売るのか。その答えには、メイドインジャパンを世界へ届けるためのヒントが隠されている。ICHIGO代表取締役CEOの近本あゆみに聞いた。

世界560万人の顧客基盤から見えた包丁ビジネスの勝算

包丁の販売に関心をもち始めたのは22年秋頃だという。コロナの水際対策緩和に伴い、合羽橋に外国人が押し寄せているというデータを見たのがきっかけだった。

ICHIGOは、お菓子のサブスクリプションサービスなどを通じて累計約560万人の顧客基盤をもち、ユーザーの7割を欧米圏が占める。当時、そうしたユーザーからも、包丁を取り扱ってほしいという要望が多く上がるようになっていた。

さらに、英語の検索キーワードを分析していたところ、主力である『Japanese snack』の関連語として『Japanese knife』が浮上。やがて検索ボリュームそのものが『Japanese snack』を逆転したという。数字もそれを裏付けた。財務省の「貿易統計」によると、日本の包丁輸出額は20年の85億円から22年には約120億円(約1.41倍)、そして24年には158億円(約1.86倍)へと急成長を遂げていた。

そこでICHIGOは23年末、オリジナル包丁を約200本制作し、和菓子のサブスクリプション「Sakuraco」のECサイト上でテスト販売を実施。すると1カ月足らずで完売した。この手応えを得て包丁市場への本格参入を決意し、25年9月にオリジナル包丁ブランド「ZAKU」のECサイトを開設した。

鮮やかな黄色をベースカラーにした空間に、オリジナルの包丁が整然とレイアウトされたZAKU合羽橋店。
鮮やかな黄色をベースカラーにした空間に、オリジナルの包丁が整然とレイアウトされたZAKU合羽橋店。壁面には「SHARPEN YOUR EDGE」のネオンサインが輝く

現在同社は、岐阜県関市や大阪府堺市、高知県、福井県越前市といった、日本を代表する包丁産地のメーカーや職人と連携し、ZAKU商品の企画・開発からデザイン、販売までを手がけている。

越境ECのノウハウ転用、ZAKUがもつ確かな強み

包丁市場には多様なプレイヤーが存在する。吉田金属工業(GLOBAL)や貝印(旬 Shun)といった欧米で高い知名度を得ている大手メーカーをはじめ、日本各地の地場メーカー、合羽橋などに店を構える老舗の刃物問屋、そしてZAKUに代表されるインバウンド特化型の新興専門店などが市場を構成している。

一見すると、お菓子のサブスクを主力事業とするICHIGOにとって、ZAKUブランドでリアル店舗を構えての包丁事業は、飛び地への参入に見える。だが近本は「届けているのはどちらも日本の文化だ」と、その見方を否定する。背景にあるのは、同社の成長戦略だ。

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文=加藤智朗 編集=大柏真佑実 写真=西川節子

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