産地との生産体制構築にも力を注ぐ。なかでも近本が強い印象を受けたのが、福井県の武生にある共同工房「タケフナイフビレッジ」だった。
「若い職人さんがとても多いんです。家業が刃物づくりだったわけでも地元出身でもない若者が、憧れの職人を追って全国から集まっている。互いに技術を教え合う開かれた環境が新鮮でした」
そこではベテラン職人が受けきれない注文を若手に回すなど、技術を産地の内側だけで守るのではなく、新しい職人を受け入れながら次世代につなぐ仕組みがある。ICHIGOはこうした産地と関係を築きながら、社内の外国人人材や海外市場、店頭でつかんだリアルな外国人客の声を商品づくりへ反映させている。
欧米の若年層が求めるのは、母国では手に入らない斬新なデザインだ。刃に浮かぶ模様や、多彩な素材と色のハンドル。加えて、軽さや手入れのしやすさといった使い勝手も重視される。こうした注文には、職人からすれば前例のないものも多く、近本らは何度も産地に足を運び、CGや生成AIでつくったイメージ画像を見せながら説明したという。
いまでは毎月、複数人の職人が自らZAKUの店舗に足を運び、自分の包丁がどんな客に買われているかを確かめに来るようになった。職人側から、名前を柄や刃に刻む「銘切り」の実演イベントや新商品の提案がされるなど、共にものづくりを続ける関係が生まれている。
外国人を魅了する「再解釈」
ZAKUの取り組みは、どれほど優れた技術や商品であっても、そのままでは世界にうまく届かない現実を示している。日本のものづくりを海外で売れる商品へ変えるには、何が必要なのか。
「いま求められているものをつくることが大切です。20〜30年前に売れたものをそのままつくり続けても、いまの需要に合うとは限りません。伝統的なものが古いという意味ではありません。昔からある技術を再解釈し、いまのお客様が魅力を感じる商品に変えていくことが大切です」
例えば、鍛造の際に生じる黒い皮膜を刃に残した昔ながらの『黒打ち』包丁は、欧米の若年層にはアニメや漫画に登場する侍の刀を思わせるものとして、ここ数年で人気が高まっている。ZAKUでは、刀身の表面に現れるマーブル状の模様、ダマスカス模様と黒打ちを組み合わせたり、モダンな木製ハンドルとコーディネートしたりすることで、現代流の黒打ち包丁として売り出したところ、売上の2割を占めるヒットカテゴリに成長した。
そうして日本に眠る優れた商品や技術を世界へ届けるべく、ICHIGOは今後も扱うカテゴリやブランドを拡張していく。近本は「日本のものを買うなら、日本のものを楽しむならICHIGO、と想起される存在になりたい」と語る。

近い将来、物販や飲食にとどまらず、エンターテインメント性を打ち出した新規事業もスタートさせる計画だという。
「私たちの事業は結局のところ、お客様に楽しんでいただくことが軸なんです。明るく楽しい体験のなかで、日本の文化を伝えていく。それをずっと続けていきたい」
我々日本人にはごく当たり前でも、世界の人々の宝物になり得る商品はまだ日本に数多く眠っているはずだ。それを誰に、どう届ければいいのか。合羽橋に佇むZAKUの黄色い店は、答えのひとつだ。


