経営・戦略

2026.09.09 13:45

お菓子の会社「ICHIGO」はなぜ包丁屋を開いたのか?

ICHIGO創業者で代表取締役CEOの近本あゆみ

15年にお菓子のサブスク「TokyoTreat」を開始して以降、同社は日本の文化を世界へ届ける「カルチャーエンターテイメントカンパニー」として事業を拡大してきた。第1フェーズの越境ECサービスでは「TokyoTreat」を皮切りに、伝統的な和菓子を扱う「Sakuraco」や日本のキャラクター雑貨を手掛ける「YumeTwins」などのサブスクを展開し、日本好きの外国人ファンコミュニティを形成。

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続く第2フェーズでは、アフターコロナのインバウンド需要の復活を背景に、カラフルなわたあめ店「TOTTI CANDY FACTORY」やいちご飴専門店「Strawberry Fetish」などの飲食店ブランドを複数展開するGOOD IDEA CONPANYを、24年8月に子会社化。リアル店舗の領域へと進出し、越境ECで獲得した顧客のLTV(顧客生涯価値)を、体験型消費を通して引き上げる戦略を進める。ZAKUは、その一環として位置付けられている。

「欧米のお客様は、単なる消費というより体験にお金を払う傾向があります。日本で包丁に触れ、買って帰り、自宅で使う。その一連の体験として包丁が選ばれていると感じます」

さらに近本は、「ZAKUに既存事業で培ったアセットを生かせる」と話す。鍵となるのはターゲットだ。ICHIGOがサブスクでとらえてきたのは欧米の20〜30代。既存のインバウンド向け刃物店には、若年層に特化したプレイヤーがいなかった。包丁事業でもここに照準を絞ることで、越境ECで培ったマーケティングノウハウやリソースを横展開できる。

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「私たちが合羽橋に出店したのは、既存店が若い層に包丁をうまく届けられていないと感じたからです。日本の包丁は素晴らしいプロダクトで需要もありますが、初めて訪日する欧米の若い方にとって、重厚な『THE和風』の店構えは敷居が高く入りにくい。観光客フレンドリーな店が、合羽橋にまだないと思ったんです」

店舗を手がけるうえで参考にしたのは、ストリート感と高級感を併せもつファッションブランドのデザイン手法だという。色数を絞り、黄色をメインカラーに据えた店は、シックな店構えが並ぶ道具街で目を引く。

(Cap)ZAKU合羽橋店の店構え。ファッションブランドのようにオープンな雰囲気で、包丁に馴染みのない若年層も気軽に入りやすいようになっている
ZAKU合羽橋店の店構え。ファッションブランドのようにオープンな雰囲気で、包丁に馴染みのない若年層も気軽に入りやすいようになっている

店内には、三徳や牛刀といった種類、鉄・ステンレスなどの素材をはじめ、柄の形・色・重さまで多種多様な約1500本の包丁が並ぶ。客はスタッフの案内を受けながら実際に包丁を握り、手になじむか、重さやバランスを確かめ、試し切りで切れ味を体験できる。ふたを開ければ、20代の女性やカップルの訪日客にも気軽に入ってもらえる店になった。

多言語での接客、免税、海外配送にも対応している
多言語での接客、免税、海外配送にも対応している

職人の心を動かした、「包丁文化をつなぐ」という一心

若い訪日客を引きつけるには、売り場を変えるだけでは足りない。彼らの感性に響く包丁をつくる必要がある。近本らはSNSなどで外国人が注目する包丁のトレンドを分析したほか、既存事業で培ったデザインのノウハウをZAKUに応用していった。

「お菓子のサブスクを10年手掛けるなかで分かったのは、欧米の若年層は鮮やかな色合いやポップさ、そして直感的に商品の魅力が伝わるデザインを好むということです。日本の伝統的なデザインは素敵ですが、欧米の若い方には少し静かすぎる印象に映ることがあります。外国人デザイナーが考える日本らしさと伝統的な美意識とを融合させ、外国人の方がクールだと感じるモダンなデザインへ昇華できると考えています」

 (Cap)ブルーやピンク、紫などのカラフルなハンドルを用いたZAKUの包丁。伝統的な日本の包丁デザインとは、一線を画す
 ブルーやピンク、紫などのカラフルなハンドルを用いたZAKUの包丁。伝統的な日本の包丁デザインとは、一線を画す

一方で、海外目線のデザインが「偽物の日本風」に陥らないよう注意も払う。例えばパッケージやWebサイトでは日本人が通常使わないフォントを避け、日本の伝統色を部分的に取り入れ、最終的には、日本人のデザイナーやマーケターがバランスをチェックする。

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文=加藤智朗 編集=大柏真佑実 写真=西川節子

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