人工知能(AI)や自律型AI(エージェントAI)に関する議論の多くは情報労働者に焦点を当てているが、情報労働者や管理者、専門職と呼ばれる人々は、労働統計局の推計によると、全労働者の約44%にすぎない。残りは、販売から製造、物流にいたるまでの現場労働者(フロントラインワーカー)である。
現場労働者にAIの恩恵を届けるという点において、状況はかなり混乱している。これは、人事・労務管理プラットフォームを提供するDayforceが現場労働者と管理者5693人を対象に実施した新たな調査の結論だ。同調査では、情報やワークフローの分断によって現場の生産性が低下していることが明らかになった。
「多くの組織は、オフィス勤務の従業員向けのAIに巨額の投資を行う一方で、生産ラインや倉庫、カスタマーサービス部門を実際に動かしている現場の勤勉な労働者を、ほとんど準備ができていない状態のまま放置している」と、Gemena Techの創業者兼CEOであるカレブ・プロスパーは指摘する。「彼らにツールが届くのは最後であり、トレーニングは最小限で、マネジメントの変革は後回しにされている」
「現場労働者におけるAIの導入は、依然として初期段階にある」と、GPS車両追跡・安全技術会社Linxupの共同創業者兼チーフ・プロダクト・オフィサーであるナイーム・バリも同意する。「現在、AIを導入している企業は、オフィスや管理職のレベルでそれを行っている。フィールドサービス(屋外作業)部門では、バックオフィスでAIを利用して作業の生産性を最大化し、技術者の移動時間を最小限に抑え、車両フリートのなかのリスクを特定し、従業員の指導が必要なポイントを自動的に検出して従業員や資産の安全を確保している。多くの車両ですでに普及しているAIダッシュカメラ(ドライブレコーダー)でさえ、分析や指導のために管理者へデータを報告するために使われており、運転手本人のためには使われていない」
Dayforceのレポートの執筆陣は、この状況を「組織が想定していなかった現場の現実」と呼び、競争力を維持するために不可欠な変革(AIやデジタル機能)は滞りがちになると指摘している。実態を物語るように、調査対象となった現場組織の役員や管理職のうち、自社が現場業務におけるAIの活用を「有意義に評価した」と答えたのは、わずか29%にとどまった。「このため、多くの組織はAIが現場チームをどこで支援できるのか、またどこで新たなリスクをもたらす可能性があるのかを理解する初期段階にとどまっている」。変革が日々の業務の進め方にうまく統合されていると答えたのは、わずか6%だった。
業界のリーダーたちも、AIの機能が現場に十分浸透していないことに同意している。「課題は、現場労働者が意図的にAIから取り残されているかどうかではなく、企業が技術の導入と同じスピードで、労働力の能力向上(イネーブルメント)を進められているかどうかだ」と、サードパーティ・ロジスティクス(3PL)プロバイダーであるKencoの人事担当シニアバイスプレジデント、レベッカ・ウィルソンは言う。「現場の従業員に必要なのは、実践的なトレーニングと、現場の具体的な課題を解決するAIツールである」
AIは、より迅速で優れた労務意思決定への期待を高めるかもしれないが、「根本的な問題を取り除くわけではない」とDayforceのレポートは述べている。「現場業務は、リアルタイムで同時に行われる意思決定に依存しているが、その背後にあるシステムはしばしば分断されたままだ。多くの組織は、勤怠、給与、人員配置、スキル、従業員育成をいまだに別々のシステムで管理している。しかし現場の管理者にとって、これらの意思決定は瞬時に交錯する。スケジュール変更ひとつで、労務コスト、コンプライアンス、人員配置、従業員体験、生産性、サービス品質のすべてが同時に影響を受けるのだ」
加えて、現場管理者の4分の3を超える77%が、自社のシステムは「業務上の問題が発生した際に明確な指針を示してくれない」と回答した。「組織は、そもそも連携するように設計されていないシステムやプロセスを通じて変革を推し進めようとしている」
また、現場労働者に適切なレベルの研修と意識を備えさせることも重要だ。「ほとんどの組織は、労働者にAIへの準備をさせるための取り組みが十分ではない」と、Ipsosの従業員・顧客体験担当シニアバイスプレジデントであるモーラ・ハウリーは指摘する。Ipsosの最近の調査では、大半の従業員が「AIツールを利用できないか、ほとんど使っていない」のに対し、管理職や経営幹部の利用率ははるかに高いという。
Kencoのアプローチは、全社的なAIトレーニングを提供するとともに、「WMS(倉庫管理システム)のナビゲーションやウェーブプランニング(出荷計画のバッチ処理)など、倉庫特有の業務を支援する」AIツールを提供することだったとウィルソンは述べる。「AIを身近で実用的なものにし、日常業務に組み込むことで、従業員がそれを生産性と課題解決能力を高めるツールとして捉えられるようにするのだ」
管理者は「AIを日常のワークフローに組み込み、一般的ではなく役割に特化したトレーニングを構築し、チェンジマネジメント(変革管理)に投資する」よう努める必要があるとハウリーはアドバイスする。これは信頼関係の構築から始まる。「従業員と明確にコミュニケーションをとり、AIがどこでどのように最も役立つかを特定するプロセスに従業員を巻き込み、日常的にフィードバックを収集し、継続的なサポートを提供する」
現場労働者に対しては、「AIが企業の効率化目標にどう貢献するかではなく、彼らの日常業務からどのように障害や摩擦を取り除くかを示すことだ」とプロスパーは言う。「従業員の本音を取り入れたパイロットプログラム、雇用維持に関する明確な対話、および職務に特化したトレーニングこそが、AIが組織にとって資産となるか、あるいは不安をもたらす負債となるかを決定づける」



