今回のAIアシストエディターも同じコンセプトの延長線上にある。ヤップ氏の言葉を借りれば「変わるのは入り口の部分です」。ツールパレットやメニューの使いこなしを後回しにして、初めてのユーザーでも、会話のようなプロンプトバーからPhotoshopを始められるようにした。
興味深いのは、この新しいユーザーインターフェイスを使った人たちのインプレッションだ。実際の利用状況を追っていくと「ユーザーはまず軽い体験から始め、慣れてくるにつれて、より高度な従来型の機能へと移行していく傾向がある」ことが見えてきたという。理由は明快、言葉による編集が万能ではないからだ。
使い始める間口は広いが、実際にやってみると言葉だけでは意図を伝えきれないことも多い。そこで、プロンプトにスライダーによる調整を組み合わせる方法を模索しながら、この新しいインターフェイスを磨き込んでいるという。
ただ、一つ言えることは、写真レタッチに取り組む壁を低くしたことで、結果として、より深くこだわった編集へと向かう傾向がある、ということだ。
“プロクリエイターの終焉”、実は三度目
「ピントが合っているか、目が開いているか、といった技術的な判定は、ますますAIが担えるようになってきています」とヤップ氏は語る。また、大量の撮影データから使える写真を選び出すカリング(選別)や露出の追い込みは、すでにLightroomのAIが肩代わりし始めた領域だ。それでも、最終的な美の判断は極めて主観的な領域に残ると彼女は言う。
「写真家が創造性の中心であるという原則は、変わりません」
AIが引き受けるのは「計画立てやワークフローの中の面倒な部分」。人間の側に変わらず残るのは「意図──何を撮るか、どんな物語を語るか」。その上でヤップ氏は、これからの写真家の差がつく場所を、ひとつに絞ってみせた。「技術的なハードルが下がれば、誰もが同じツールにアクセスできるようになるため、差別化の要因は、その写真家にしか語れない物語を語る力の方へと、さらにシフトしていきます」
筆者はこの30年余り、写植がDTPに置き換わる現場にも、フィルムがデジタルに置き換わる現場にも居合わせてきた。写真家の価値は変わらない。だが、道具が変わるたびに「それを扱うプロの終わり」が語られてきたのは、いつも同じだ。
そのたびに実際に起きたのは専門性の再配置だった。操作の熟練に払われていた対価は薄れ、判断と構想に払われる対価が残る。生成AIは三度目の、そしておそらく最も速く広範囲に進む再配置だ。撮影と編集にとどまらず、企画から納品までのワークフロー全体が作り替えられつつあり、その影響は今後数年にわたって続くだろう。


