アドビでPhotoshopとLightroomを統括するマリア・ヤップ氏に取材することができた。生成AIが写真だけではなく、さまざまなメディアの生成・編集の常識を塗り替えるいま、アドビが「守る」と決めたものの中に、AI時代を生きるプロフェッショナルの条件が透けて見えた。
プロンプト入力から始まる新しいPhotoshop
米国時間8月27日、アドビはPhotoshopの8月期アップデートで、「AIアシストエディター」と呼ぶ新しい編集モードのベータ提供を始めた。開いて最初に向き合うのは、レイヤーパネルでもツールバーでもない。編集したい内容を言葉で書き込む、一本の入力欄だ。
「空をもう少し夕方らしく」
「手前の電線を消して」
そう頼むだけで、どのようなツールを使い、どんな設定で、どんな操作を行うべきなのかはAIが引き受ける。従来の編集画面も残されていて、どちらで利用するかはユーザーが選ぶ仕組みだ。
Photoshopの誕生は1990年。以来36年、この道具は“プロの技術と創作性”を前提に開発されてきた。レイヤーを理解し、マスクを覚え、ショートカットが手に馴染んだ者だけが、思い通りの一枚にたどり着けた。しかし、そうした使いこなしのノウハウを、生成AIがカバーし始めている。誰もが話しかけるだけで編集できるなら、プロの技能はどこに残るのか。そもそもPhotoshopという道具そのものは必要とされるのか。
アドビでPhotoshop、Lightroomなどデジタルイメージング部門を率いるバイスプレジデント、マリア・ヤップ氏に質問をぶつけた。写真関連の製品ひと筋に15年以上を歩んできた人物で、現在は最高技術責任者(CTO)の直轄組織に籍を置く。彼女の答えに“飾り”はなかった。
アドビが守るべきもの
生成AIへのアドビの向き合い方は、ヤップの最初の答えに凝縮されている。「私たちが守り続けているのは、ピクセル単位の精密さと、レイヤーによる非破壊的なコントロールです──これがPhotoshopの根幹です」。非破壊とは、元の画像データを壊さずに何度でも編集をやり直せる仕組みのことだ。商業品質が求められる現場でPhotoshopが選ばれ続けてきた理由の中核である。
振り返れば、この会社の生成AI対応は一貫して、先に“守るべき対象”を宣言しながら導入を進めてきた。クライアントの多くがクリエイターなのだから、それも当然というべきだろうか。2023年3月に発表した画像生成AI「Adobe Firefly」は、権利処理済みのコンテンツを中心に学習させる方針を最初に打ち出し、企業向けには生成物への法的補償まで用意した。派手さより、プロの現場が安心して使える条件を先に整える。



