一方、外交・安保ラインはほとんど動かなかった。唯一、国防相が、与党「共に民主党」議員の安圭伯氏から米韓連合軍副司令官などを務めた姜信哲駐サウジアラビア大使に代わる。前出の与党関係者は「これは外交・安保政策の転換を意味しない。むしろ、加速させるための人事だ」と語る。安氏は2024年12月の戒厳令を受け、軍内部の人事・綱紀粛正のため、非軍人として起用された。ただ、軍事知識や軍人脈の不足が指摘され、李政権が望む、任期中の朝鮮半島有事の際の戦時作戦統制権移管などに対応できるのか、という不安の声が政府・与党内から出ていた。
では、「高市早苗首相が仲の良い外国首脳は李在明氏だけ」とまで評される日韓関係に影響は出ないのか。前出の与党関係者は「大統領は、極端な対日強硬路線が批判を浴びた文在寅元政権の教訓を忘れていない」と語る。李氏の対日外交などは韓国内でも高い評価を受けているという。
ただ、日韓外交が思わぬ方向から影響を受けないとも限らない。韓国メディアが伝えた魏聖洛国家安保室長の8月28日の記者会見が、韓国政府内外の苦しい状況を物語っている。魏氏はトランプ米大統領が意欲を見せる米朝首脳会談の実現に向けて協力する考えを示す一方、「この過程で、韓国が排除されることがないようにする」と語った。これは、おそらく鄭東泳統一相らの「対北朝鮮融和派」と趙顕外相らの「安保重視派」の意見を共に取り入れ、韓国の国益を守ろうという苦肉の発言だろう。
しかし、米朝首脳会談が実現すれば、トランプ氏は北朝鮮の核保有を黙認する証文として、北朝鮮制裁の大幅緩和を受け入れるかもしれない。朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換し、「平和になった」という名目で個人的に支持する在韓米軍の削減・撤退に踏み込むかもしれない。米国は簡単に韓国の主張など踏みつぶすだろう。
その場合、対北朝鮮政策では韓国の安保重視派とほぼ利害が一致する日本も厳しい立場に追い込まれる。場合によっては、南北関係の復元を繰り返し主張する李在明大統領と衝突する場面も生まれかねない。
高市早苗首相は今度こそ、贈り物合戦などに終始せず、シャトル外交で李氏との真剣な協議に臨むべきだ。


