サメの正確な年齢を知りたいからといって、サメに「おいくつですか」と尋ねるわけにはいかない。しかも、樹木の年輪であれば、非侵襲的に数えることができるが、サメの場合は、「年輪」を数えようと思うと侵襲的にならざるを得ない。
サメの年齢を推定しようとする研究者はずっと以前から、脊椎の成長線に頼ってきた。この方法は有効だが、通常は個体を殺さなければ情報が得られない(また、高齢個体ではあまりあてにならないことが明らかになっている)。では、どうすればいいだろう?
一つの手は、サメの脊椎ではなく、血液を調べるというものだ。
こうした前提に基づいて行われた最新研究で、トラフザメ(学名:Stegosoma tigrinum)を対象に、軟骨魚類ではほとんど前例のない、極めて正確な「エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)」の手法が開発された。
研究チームは、血中のDNAメチル化のパターンから、トラフザメの年齢を、誤差中央値1~2歳の精度で予測できることを明らかにした。さらに驚くべきことに、この統計モデルは、ゲノムのわずか10カ所から得られた情報だけで、相当な精度で年齢を推定することができた。
ところで、そもそもエピジェネティック・クロックとは何だろう?
私たちのDNA配列は、おおむね誕生時から固定されているが、DNAの発現制御は生涯にわたって変わり続ける。発現制御の重要なメカニズムの一つが「DNAメチル化」だ。これは、メチル基と呼ばれる小さな分子群がDNAに付着するもので、塩基配列の中のシトシン(C)とグアニン(G)が続く箇所で起こることが多く、こうした箇所はCpGサイトと呼ばれる。
メチル基という「化学的タグ」は、近傍の遺伝子の発現に、促進または抑制という形で影響を与える。動物が年を取るにつれ、ゲノム全体のメチル化のパターンは変化する(メチル化が失われる領域もあれば、新たにメチル化する領域もある)。こうした変化は、ある程度予測可能な形で起こるため、研究者はこの情報に基づいて統計モデルを構築し、個体の年齢を推定することができる。
この手法はすでに、ヒトとその他の哺乳類の加齢に関する研究に大きな進歩をもたらした。2013年に開発された、ヒトを対象とした初のエピジェネティック・クロックは、353カ所のDNAメチル化サイトを利用して、数年の誤差で年齢を推定することに成功した。それ以来、研究者たちは数十種の哺乳類に加え、鳥類、爬虫類、両生類、硬骨魚類においても、エピジェネティック・クロックの手法を確立してきた。
しかし、これまでサメはいわば盲点になっていた。軟骨魚類が加齢研究において特別な意味をもつ分類群であることを考えれば、なんとも皮肉な話だ。サメやガンギエイ、エイといった軟骨魚類は、実に4億年以上も昔に、のちにその他のほとんどの脊椎動物を生み出す系統から分岐した、非常に古い脊椎動物だ。
また、軟骨魚類のなかに見られる寿命のばらつきは驚くほど大きい。10年あまりしか生きられないサメもいれば、おそらく数世紀にわたって生き続けるニシオンデンザメもいる。今回の研究の対象種であるトラフザメでは、28年以上生きた例が知られている。



