こうした背景を考慮し、研究チームは、サメやその近縁種に注目することで、一つの問いに答えを出そうと考えた──老化の生物学のどこまでが、数億年前から受け継がれてきたものなのかという問いだ。
調査にあたり、研究チームは1歳未満から推定30歳までのトラフザメ70頭から血液サンプルを採取した。このうち51頭は水族館生まれで、出生日がわかっていた。年齢を予測する統計モデルを構築し、検証する際には、この情報(すなわち、年齢が判明しているサメの個体)が不可欠だ。
次に研究チームは、酵素法による全ゲノムメチル化解析(Enzymatic Methyl-seq:略称EM-Seq)と呼ばれる手法を用いて、1400万カ所以上のCpGサイトを解析した。少数の有望な箇所だけを解析するのではなく、このような手法を採用することで、トラフザメのゲノム全体で起こる、加齢に関連したメチル化を網羅的に分析したのだ。
その結果、全体としてメチル化は、加齢とともに微減することがわかった。メチル化が失われるサイトの方が、新たにメチル化を獲得するサイトよりも多かったのだ。そして、こうした変化が起こる場所はランダムではなかった。メチル化を獲得した箇所は、遺伝子とプロモーターの近傍の、CpGサイトが豊富な領域に集中する傾向が見られ、ここにはポリコーム抑制複合体(PRC)と関連する領域も含まれていた。
では、メチル化を失った箇所は? そうした傾向は、CpGサイトの乏しい領域や、遺伝子本体の内部で見られた。このようなパターンは研究者には見慣れたもので、だからこそ研究チームは少し困惑した。哺乳類のゲノムのメチル化パターンとそっくりだったからだ。つまり、トラフザメとヒトは、数億年にわたってまったく異なる進化の道のりを歩んできたにもかかわらず、両者の加齢の分子生物学的パターンの一部は、驚くほど似通っていたのだ。
だからといって、サメはヒトと同じように年を取るわけではない。むしろまったくの別物だ。研究チームが指摘するように、メチル化が実際に老化現象を引き起こす原因なのか、それとも、動物の加齢に伴うその他の生物学的プロセスの副産物にすぎないのかは、この研究からはわからない。しかし、このようなメチル化パターンの類似性からは、老化の生物学的プロセスの一部が、脊椎動物という分類群全体で、途方もなく長いあいだ保存されてきたものである可能性が示唆される。


