仮にヘイゼルと呼ぶある女性は、昨年、昇進と昇給を果たし、新たな役職を手に入れた。給与は上がり、社会的地位も高まり、尊敬できる上司にも恵まれた。書類上の条件を見る限り、それは素晴らしい仕事だった。
しかし6カ月後、彼女はみじめな気持ちに陥っており、自分でもその理由をうまく説明できずにいた。
給与や役職、福利厚生、キャリアの展望はどれも重要だ。だが、仕事に対して実際にどう感じているかを理解するには、業務そのものに目を向けなければならない。
今から半世紀近く前、組織心理学者のJ・リチャード・ハックマンとグレッグ・オルダムは、ジョブ・デザイン(仕事設計)に関する極めて影響力のあるモデルを開発した。彼らは、一部の仕事が他の仕事よりもモチベーションや満足度を高める理由を説明する5つの特性として、「技能多様性」「タスク完結性」「タスク重要性」「自律性」「フィードバック」を特定した。
1. その仕事は、自分のスキルを十分に活かせているか?
ハックマンとオルダムはこれを「技能多様性」と呼んだ。仕事において、どれだけ多様なスキルや能力を発揮できるかということだ。
会議に出席し、メールに返信し、資料を更新するだけで1日を終えることもできる。しかし、何か困難な課題を解決しただろうか。何かを創造しただろうか。意思決定を下したり、誰かを説得したり、新たな学びを得たりしただろうか。
多様なスキルや能力を活かせる仕事ほど、主体的に取り組みやすくなるものだ。
自分自身に問いかけてみよう。「自分の本来持っている能力のうち、この仕事で実際に活かせているのはどれくらいだろうか?」
2. 「自分がこれをやった」と胸を張って言える成果があるか?
ハックマンとオルダムはこれを「タスク完結性」と呼んだ。一つの仕事を最初から最後まで一貫して見届けることができるかどうかだ。
ある人がデータを集め、別の人がそれを分析する。また別の人が提案書を書き、AIがプレゼン資料の初稿を作成する。それをマネージャーが修正し、さらに別の人が発表する。
このように分業化されていると、プロジェクトに懸命に取り組んだとしても、自分が何かを作り上げたという実感が得られないかもしれない。
だからこそ、タスク完結性が重要なのだ。パズルのピースを1つ提供することと、成果物を指さして「これを自分が作った」と言えることの間には、心理的に大きな違いがある。
自分に問いかけてみよう。「先月自分が作り上げるのに貢献した、目に見える成果は何だろうか?」
何も思い浮かばないなら、仕事が細分化されすぎて、労働の成果を実感する喜びが失われている可能性がある。
3. 自分の仕事によって、誰がより良い状態になっているかを知っているか?
ハックマンとオルダムはこれを「タスク重要性」と呼んだ。自分の仕事が他者に有意義な影響を与えているかどうかだ。
会計士は、苦境にある中小企業の存続を助けることができる。エンジニアは、製品の使い勝手を向上させてユーザーのストレスを減らすことができる。マネージャーは、チーム全体が質の高い仕事をしやすい環境を整えることができる。
自分の仕事が誰の役に立っているかが見えれば、働く目的はより明確になる。それが見えないと、たとえ有用な仕事であっても、実感が伴わない抽象的なものに思えてきてしまう。
顧客は単なる「案件番号」になり、患者は「症例」になり、部下は「ダッシュボード上の指標」になってしまうのだ。
自分に問いかけてみよう。「自分が仕事をうまくこなしたとき、より良い状態になるのは誰だろうか? その影響を実感する機会はあるだろうか?」
4. 自分で決定できる裁量がどれくらいあるか?
ハックマンとオルダムはこれを「自律性」と呼んだ。仕事の進め方を自分で決める自由がどれだけあるかということだ。
週に3日の在宅勤務が認められていても、一日のスケジュールをどう組み立てるか、プロジェクトにどうアプローチするか、どのような判断を下せるかについて、裁量がほとんどない場合もある。
自律性が重要となるのは、仕事の進め方について主体的な選択ができると、その成果に対する責任感や当事者意識が高まるからだ。
自分に問いかけてみよう。「仕事における重要な意思決定のうち、自分が任されていると実感できるものはどれだろうか?」
5. 自分が良い仕事をしているかどうかを実感できるか?
5つ目の特性は「フィードバック」だ。日々の業務を通じて、自分の仕事の成果について明確な手応えを得られているかどうかだ。
ダッシュボードを見れば、43件の電話をかけ、67通のメールを返し、18件の問い合わせを処理したことがわかるかもしれない。しかし、その数値だけでは、本当に誰かを助けられたのか、適切な問題解決ができたのか、質の高い仕事ができたのかはわからない。
有意義なフィードバックとは、自分の行動と、それによってもたらされた結果との間の因果関係を明確にするものだ。
多くのナレッジワーカー(知的生産労働者)は、こうしたフィードバックを得られていない。一つの仕事を終えて提出したら、すぐに次の仕事に取りかかる日々を繰り返している。
自分に問いかけてみよう。「自分が良い仕事をしたとき、あるいは失敗したとき、その結果をどれくらい早く把握できているだろうか?」
今の仕事を5つの視点で診断する
現在の仕事について、以下の項目をそれぞれ1点から10点で評価してみよう。
技能多様性:自分の幅広い能力を活かせている。
タスク完結性:物事を最後まで見届け、自分が作成に貢献したと言える成果がある。
タスク重要性:自分の仕事が誰の役に立っているかが見える。
自律性:仕事の進め方について、主体的な選択ができる。
フィードバック:自分の取り組みがうまくいっているかどうかがわかる。
平均点を気にする必要はない。点数が低かった項目に着目してほしい。
数十年にわたる研究が、これらジョブ・デザインの基本要素の重要性を裏付けている。業務そのものの特性が、モチベーション、仕事満足度、パフォーマンスなどの成果に結びついていることが各種研究で明らかになっており、研究者たちは現在もハックマンとオルダムのオリジナルモデルの改良と拡張を続けている。
診断だけで終わらせない。仕事を「再設計」しよう
点数が低かったからといって、転職が必要とは限らない。今の仕事の内容を自分で変えられる場合もあるからだ。
「タスク完結性」が低いなら、5つのプロジェクトに部分的に関わるのではなく、1つのプロジェクトを最初から最後まで任せてもらえるよう打診してみよう。
「タスク重要性」が低いなら、自分が作った製品のユーザーや、その恩恵を受けている人々と接する時間を増やす方法を探してみよう。
「自律性」が低いなら、現在は承認を仰いでいる意思決定の中から、自分で判断しても差し支えないものを1つ特定してみよう。
「フィードバック」が低いなら、自分の手を離れた仕事がその後どうなったかを追跡する方法を見つけよう。
「技能多様性」が低いなら、現在の業務ではほとんど活かされていない自分の強みを発揮できる新たなタスクを引き受けてみよう。
研究者はこれをジョブ・クラフティングと呼んでいる。自分に合うように仕事の側面を主体的に変えていくことだ。
もちろん、すべてを再設計できるわけではない。仕事の一部はマネージャーや組織の管轄にあるし、あまりにも設計がひどい仕事は、単に「欠陥のある仕事」でしかないこともある。
ここでヘイゼルの話に戻ろう。彼女の昇進は、収入と地位向上をもたらした一方で、以前の仕事で得られていた満足感を静かに奪い去ってしまったのかもしれない。それは、自分の強みを活かすこと、意義のある仕事を最初から最後まで担うこと、その成果を見届けること、そして自律的に進めることだ。
書類の上ではステップアップしたものの、仕事そのものの質は低下していたのだ。
「自分は野心を失ってしまった」「別のキャリアが必要だ」「もっと昇給が必要だ」と結論づける前に、今実際に行っている業務をじっくりと見つめ直してほしい。
良い仕事とは、それによって何が得られるかだけではない。それを行っている最中に、どのような実感が得られるかでもあるのだ。



