企業はAIに何十億ドルもの資金を投じ、それが成果を上げていると投資家に説明している。しかし、従業員に尋ねれば、全く異なる答えが返ってくる。
スタンフォード大学とベターアップ(BetterUp)の研究者が「ワークスロップ(workslop:AIが生成した、見栄えは良いが中身のないコンテンツ)」と呼ぶものを、労働者の約40%が受け取っていると報告している。洞察のないスライド資料、分析を欠いた報告書、要点を完全に外した要約。誰かが手直ししなければならない仕事であり、それは時間を節約するどころか、むしろ新たな時間を生み出していることを意味する。
ワークスロップが発生するたびに、その解決には平均2時間を要する。従業員が報告した給与額に基づくと、この目に見えない後片付けのコストは、影響を受ける従業員1人あたり月額約186ドル(約2万円)に達する。従業員1万人規模の組織であれば、これは生産性の向上どころか、年間900万ドル(約14億1000万円)の損失につながる計算になる。
この数値が重要なのは、企業がAIによる効率化のために費やしている数十億ドルという巨額の投資と表裏一体だからだ。AIは組織をよりスリムに、より迅速にすると約束されていた。しかし、データが示し始めている事実は異なる。AIはさらなる仕事を生み出す仕事を生成しており、それを誠実に測定して気付いている者は誰もいない。
企業が信じていることと、データが示す現実との乖離
KPMGの2026年グローバルAIパルス調査によると、AIの導入がほぼ全社的に進んでいるにもかかわらず、AI投資によるROI(投資対効果)を確立できたと回答したビジネスリーダーはわずか7%にすぎない。これは単なる小さな導入プロセスのギャップではない。ほぼ普遍的な導入がほぼ普遍的な失望を生み出しているにもかかわらず、大半の組織は依然としてAI予算を増やし続けているのだ。
テクノロジーに最も近い現場の労働者も、同じことを報告している。アップワーク(Upwork)研究所によると、77%がAIによって仕事量が増えたと述べている。生産性を何倍にも高めるツールとして売り込まれたものが、それを使う大半の人にとっては、削減する以上の仕事を生み出している。会議は依然として必要だ。意思決定も依然として必要だ。そして今や、AIが生成したものを次の段階に進める前に、誰かがチェックし、編集し、修正しなければならなくなっている。
認識の乖離は、多くのリーダーが考えている以上に深刻だ。AI研究機関のMETRによる研究では、AIツールを使用する経験豊富な開発者は、使用しない開発者よりもタスクの完了が19%遅かったことが判明した。しかし、当の開発者たちは、自分たちが20%速く仕事をしていると思い込んでいた。
これは、対照実験において、仕事のすべてがテクノロジーに関わる人々を対象とした場合の、主観的な生産性と実際の生産性との間にある、約40パーセンテージポイントの開きを示している。最も技術的に洗練されたユーザーでさえ、AIが自身の成果物に与える影響を正確に測定できないのであれば、企業の社内調査に現れる自己申告の生産性向上というデータは、厳しく精査されるべきである。
企業はまだ存在しない生産性向上を前提に組織再編を行っている
ゴールドマン・サックスは、2026年の世界におけるAI関連投資が、米国単独での5810億ドル(約90兆8000億円)を含め、総額1兆ドル(約156兆円)に達すると予測している。企業側が投資に対する見返りを測定できないと認めながらも、この支出は加速している。
KPMGの調査はその理由を説明するのに役立つ。ビジネスリーダーの78%が、実績ではなく「投資家や取締役会に対してAIの価値を示すこと」が自社戦略を推進する極めて重要な要因であると回答した。投資が行われているのは、リターンがあるからではない。経営陣が「投資を行っている姿」を見せる必要があるからだ。
このような外部からの圧力は、内部に影響を及ぼす。取締役会はAIの成果ではなく、導入の発表を評価するため、こうした投資を推進した経営陣にとって、「成果が出ていない」と報告するインセンティブはほとんどない。AIの成功を測定するために使用される指標の大部分は自己申告であり、数値を良く見せる必要のある組織自身によって生成されている。その結果、支出は増え続け、成果の主張は絶えず、投資額と実際の見返りとの乖離は隠されたままというフィードバックループが生まれている。
この乖離は現在、労働力に影を落としている。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス(Challenger, Gray & Christmas)によると、2026年これまでに発表された人員削減の理由として、AIを理由とするものが全体の24%を占めている。企業は、AIがその決定を正当化できるかどうかを測定できないと認めながらも、職務を削減している。こうした削減によって解雇された労働者の多くは、実際に業務を遂行するAIシステムに取って代わられているわけではない。彼らは「いずれAIがその仕事をするだろう」という想定によって置き換えられているのだ。
AI生産性のギャップが企業に実際にもたらしているコスト
データアイク(Dataiku)の依頼で実施されたハリス・ポールによるCEO900人を対象とした調査では、世界のCEOの80%が、年内にAI戦略が失敗すれば自身の立場が危うくなると回答した。また、72%は取締役会から測定可能な成果を示すよう強い圧力を受けていると答えた。雇用の安定がAIの進捗を示すことに依存している場合、プロジェクトが機能していないと報告することはキャリア上のリスクとなる。そのため、ほとんどのリーダーはそうした報告をしない。
この力学には代償が伴う。スタンフォード大学とベターアップの研究によると、人間のレビューと修正を必要とするAI生成の成果物は、従業員1万人あたり年間900万ドル(約14億1000万円)のコストを組織にもたらしている。労働者は、実用に耐えないAIの成果物を修正するために多大な時間を費やしているが、その時間は、企業が取締役会に報告する生産性データには一切表れていない。
成果を上げていないAIプロジェクトの行く末に目を向けると、問題はさらに深刻だ。エマージン(Emergn)がシニアビジネスリーダー700人を対象に行った調査では、パフォーマンスの低いAIの取り組みを終了することを、正常かつ許容可能な決定と見なしているリーダーはわずか30%にとどまった。また、シニアリーダーの約4分の1が、AIプロジェクトが失敗したことを認めるのをためらっていると明かした。結果として、それらのプロジェクトは継続され、米国企業に平均して年間売上高の2.4%に及ぶコストをもたらし続けている。
こうした失敗プロジェクトの上に築かれた人員削減の決定は、さらに高くついていることが証明されつつある。フォレスターの2026年「未来の働き方(Future of Work)」調査によると、雇主の55%がAIに関連した理由で行った人員削減を後悔している。AI導入後に職務を削減した米国の採用マネージャーの30%以上が、その後、それらのポジションを復活させており、当初の削減で節約した金額以上のコストを費やす結果となっている。
リーダーが職場でAI導入に取り組むべきアプローチ
問題は、企業がAIに投資していること自体ではない。ほとんどの企業が、そのテクノロジーが実際に何をもたらしているかについての実直なデータを得る前に、人員や予算に関する決定を下していることだ。これこそが、まず埋めるべきギャップである。
広範な導入ではなく、特定のユースケースから始める
AIから真のリターンを得ている企業は、あらゆる場所にそれを導入して結果を期待するようなことはしていない。彼らは、AIが明らかに時間を短縮するか成果を向上させる特定のタスクを特定し、そこから開始して慎重に測定し、エビデンスによって裏付けられたものだけを拡大している。明確なユースケースのない広範な導入は、データが示す通りの結果、すなわち「高い導入率と極めてわずかなリターン」をもたらす。成果を上げている組織は、個々の導入を発表の機会としてではなく、テストとして扱っている。
生産性の向上を期待する前にトレーニングに投資する
アップワーク研究所によると、労働者の77%が「AIが仕事量を増やした」と回答している。その大きな理由は、大半の組織が労働者にそれを効果的に使用するための体系的なトレーニングを提供することなく、AIツールを導入しているからだ。自身の特定のタスクにAIを適用する方法を理解している労働者は、ただツールを渡されて自力で解決することを求められた労働者よりも、有意に優れた成果を報告している。導入前に既存の労働者のリスキリングを行うことは、AIがギャップを埋めるという想定の下で人員を入れ替えるよりも費用対効果が高い。
導入前に基準を確立し、それと比較して測定する
大半の組織は、AIを導入する前に生産性を測定していなかったため、AIが機能しているかどうかを知る術がない。基準値(ベースライン)がなければ、AIによる効率化の主張は本質的に検証不可能であり、それが自己申告による生産性の数値が対照研究の結果とかけ離れている一因となっている。組織は、AIツールを導入する前にタスクや職務レベルで明確なパフォーマンスの基準値を設定し、一定の間隔でその基準値に対する実際の成果を測定すべきである。それこそが、投資が本物のリターンをもたらしているかを知る唯一の方法だ。
活動ではなく成果を測定する
導入率やツールの使用統計、1日あたりのAIプロンプト送信数は、生産性の指標ではない。それらは活動を測定しているにすぎない。重要なのは、以前よりも仕事が速く、エラーが少なく、低コストで完了しているかどうかだ。リーダーは、取締役会への報告において「AIの活動」と「AIの成果」を明確に区別すべきであり、取締役会は導入の発表をあたかも成果であるかのように評価するのをやめるべきだ。AIの進捗を示さなければならないという圧力が、企業側の主張と現場の労働者が実際に経験していることとの乖離を引き起こしている。トップで測定される対象を変えることで、現場で優先される事柄も変わるのだ。



