米国では近年、公衆衛生の分野で朗報を耳にすることはめったにないが、死亡率には明るい兆しが見られる。米疾病対策センター(CDC)が発表した死亡率の暫定値によると、2025年の人口10万人当たりの年齢調整済み死者数は、前年に記録した過去最低値を更新し、1世紀以上にわたる統計史上最低となった。米国の死亡率は21年以降、22%低下している。同国の平均寿命は24年、過去最高の79歳に達した。
ここ数年で死亡率が低下した要因としては、新型コロナウイルス関連や違法薬物の過剰摂取による死者数が減少し続けていることが挙げられる。米国の死因の上位3位は、心疾患、がん、そして薬物の過剰摂取を含む不慮の事故が占めている。
注目すべきは、米国と他の先進国との平均寿命の差が24年に4.1年から3.7年に縮小したことだ。24年の平均寿命は、米国が79歳だったのに対し、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の平均は82.7歳だった。特に、23~24年にかけて、他国では平均寿命がわずか0.1年しか伸びなかったのに対し、米国は0.6年と大きな伸びを示した。
米国は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)後の回復局面を迎え、同ウイルスの流行がピークに達した際に大幅に拡大した死亡率の格差を縮めつつある。しかし、これは構造的な変化というよりは、新型コロナウイルスや薬物の過剰摂取といった急激な死亡率上昇からの短期的な回復を反映しているに過ぎない。米国は特に肥満や2型糖尿病といった慢性疾患のほか、乳児死亡事故や銃犯罪、交通事故、国民皆保険制度の欠如といった根深い問題により、依然として他国に後れを取っている。
今から45年以上前、米国の平均寿命は他の先進国とほぼ同水準にあったが、1980年頃を境に差が開き始めた。あらゆる年齢層で慢性疾患の指標が悪化していることも一因だが、近年特に際立っているのは、20代の米国人の死亡率が比較対象国の3倍に達しているという事実だ。こうして、同じように発展を遂げた他の先進国では平均寿命が着実に延び続けた一方で、米国ではその伸びが鈍化し、2012年頃にはほぼ横ばいとなった。
現在、米国人の平均寿命が延びているという喜ばしい報告はあるものの、同国ではあらゆる年齢層で死亡率が低下している一方で、人口統計上のグループ間には大きな格差が存在することに留意する必要がある。米国の平均寿命の伸びは一様ではなく、人種や民族、社会的地位によって著しく異なっている。同国の富裕層の平均寿命は、貧困層より最大で約15年長い。この経済力による格差は、欧州やオーストラリア、日本、カナダよりはるかに大きい。
さらに米国では、適時に効果的な医療を受けたり、食生活や運動習慣を改善したりすることで防ぎ得る死の割合が、他の先進国と比べて大きい。これは医療の受けやすさにも関係している。米国では無保険者が多いため、患者は予防や継続的な診療ではなく、緊急の処置に頼らざるを得ない状況が生じている。また、医療保険がある場合でも、不適切な生活習慣のために基礎的な健康状態が悪化する事例もある。これに加え、銃による殺人や自殺、違法薬物やアルコールの過剰摂取、そして人口全体に見られる比較的高い慢性疾患の罹患率といった数多くの問題が存在する。死亡率の統計に見られる近年の好ましい傾向をどこまで維持できるかは、こうした構造的な問題にいかに対処するかに懸かっている。



