アセットといえば、フィンランドの起業家やビジネス関係者から何度か聞いた言葉がある。「フィンランドには3つの天然資源がある。木と水、そして聡明な人々(Woods, water and wise people)だ」というような言い回しだ。
この「聡明な人々」の思考様式を如実に表すユニークな文化として、VTTが毎年開催している「Gala of Failures(失敗の祭典)」を挙げられるのではないか。この「失敗の祭典」とは、役員から研究員まで全職員が参加し、自身が犯した最も価値ある失敗を応募して堂々と称え合う社内イベントである。アラストも、彼の同僚が失敗体験を披露して優勝したと明かす。
「挑戦しなければ、大きな構想を描いて実行しなければ、偶然に成功を手にすることなどあり得ません。高い目標を掲げるべきです。失敗したなら、それは仕方のないことです。100のアイデアのうち成功するのは2つに過ぎないという言葉もあります。私たちは失敗を恐れてはならないのです」
フィンランド人が生まれつき無謀なリスク愛好家というわけではない。アラスト自身も「むしろフィンランド人はリスクに対して慎重な傾向がある」と語る。だが、かつて一世を風靡したノキアの携帯電話事業の失速と、そこからの力強い産業構造の再構築を間近で経験してきた国でもある。痛みを伴う歴史に学び、自らの枠組みを壊して革新し続けることに、フィンランドのイノベーションの根底にある「真の賢さ」がうかがえる。
民間企業が冒しにくいその「革新のリスク」を誰が背負うのか。アラストはこう話す。
「事業や企業規模に応じて、異なる方法で自らを革新し続けなければなりません。非営利組織であるVTTは、まさにそのためにリスクを取るべきであり、リスクを取ることができる存在です。民間企業と同じ商業リスクではなく、『これからの5年間、私たちはこの困難な課題に取り組む』と宣言することでリスクを取る――。それこそが、新たな産業の芽を育てるうえで私たちが果たすべき役割なのです」


