では、日本の企業はどのようにVTTにアプローチし、信頼関係を築いていけばよいのか?
じつは形式的な商談ではなく、人と人の信頼関係をベースに「自社の本当の困りごと」を率直に打ち明ける対話から始めることが最短ルートになるとアラストは言う。自社ホームページにケーススタディやQ&Aで協業をパターン化して紹介する会社が多い現代においては、やや直観に反するかもしれない。だが、多面体で定型のビジネスパッケージがないVTTだからこそ、それが最短距離となる。
そして、アラストは「だからこそ私は日本企業とのビジネスが好きなのです」と微笑み、根底に流れる両国の文化的な親和性を指摘する。
「私や多くのフィンランド人にとって大切な価値観が、日本にも存在しています。信頼という要素は両国でまったく同じではないかもしれませんが、社会や協業の基盤として極めて重要です。信頼は一朝一夕には築けません。これこそが、他の欧州諸国以上にフィンランドと日本を強く結びつける共通項です」
形式的なR&D(研究・開発)契約ではなく、泥臭い対話から始める姿勢こそが、北欧の知恵を自社のイノベーションへと取り込むカギとなるのだ。そして協業を成功させる秘訣は、最初から壮大な計画を掲げることではなく、個と個の信頼関係に基づき、自社の抱える本当の課題(ペインポイント)を率直に開示することにあるという。
日本企業にとって自社の弱みや解けない課題を外部に明かすのは容易ではない。しかし、VTTは守秘義務のもとでその課題を受け止め、自社に解がなければ「自分たちにはできないが、それを解決できる別のパートナーを知っている」とつないでくれる。
もちろん、フィンランドと日本とでは組織風土の違いは存在する。最大の違いは職場でのヒエラルキーの低さだろう。北欧社会特有のフラットな文化はVTTの日常にも深く根付いているようだ。
「私たちにも序列はありますが、その概念が異なります。誰とでも議論しますし、肩書きよりも、その個人がどれだけ価値あるものをもたらすことができるかが重視されます。私自身もCEOに対して『別の考えがあります』と率直に伝えることもありますが、何ら問題はありません。最終的な決定はCEOが下しますが、このオープンでフラットな組織文化こそがフィンランドの強みであり、重要なアセットです」(アラスト)


