VTTの強さを紐解く最大のカギは、同組織が自前主義に固執しない「多面体」であるという点にある。アラストは、自らをカメレオンに例えつつ「エコシステム(生態系)」の重要性を説く。「私たちは単独では機能しません。もし火星にVTTだけを置いたとしても、何も起きずに終わるでしょう。私たちは世界中の大学、企業、そして公共部門と協働する必要があります。私たちの成功の本質はエコシステムにあります。VTTを通じて社会に送り出される技術のすべてが、VTT内部で発明されたものである必要はありません。第三者のアイデアや、他社、他大学の技術であってもいいのです。全員に利益が行き渡るようビジネスの観点から設計しますが、自前の技術だけに固執することはありません。
たとえば私たちが四角い箱(ある製品)を開発しているときに、別の会社が『この用途なら、うちの平らな箱(別の形状や補完技術)の方が適している』ともちかけてきたとしましょう。私たちは自分たちの自前技術に固執せず、喜んで知見を提供してその会社の開発を支援します。そこに自前主義ゆえの嫉妬心などありません。上場企業には難しいアプローチかもしれませんが、私たちにとってはこれが進むべき道なのです」
つまり、自前での発明に固執するのではなく、他社に優れた技術やアイデアがあれば喜んで手を組み、全体として最速で社会実装を目指す――。この徹底した「オープンイノベーション(エコシステム)」の姿勢こそがVTTの強みなのだ。だが同時に、政策提言から高度な技術開発、ビジネスコンサルティングまで幅広くこなすこの多面性こそが、同じ構造をもたない日本企業にとって「どこから相談すべきか分からない」という敷居の高さにつながっているのも事実だ。
「じつは日本企業に限らず、どの国の企業にとっても私たちを理解するのは簡単ではありません。多様な側面をもっているため、大学などの既存の枠組みに当てはめて理解しようとしがちですが、私たちは少し違った動き方をしますから」(アラスト)


