実生活におけるリスクがゼロであるため、こうした芸術作品は事前の訓練場となる。脳は、劇中のキャラクターが直面しているものと同じ困難な感情をどのようにコントロールし、自分ならどう対処するかをシミュレーションするが、その際に負のコストを支払う必要は一切ない。ファンコート博士は、人間の脳を「予測マシン」と捉えることができると指摘し、芸術は、すでに予行演習を済ませた状況のバリエーションを増やすための、非常にコストパフォーマンスの高い方法であると述べている。
これが「感情的知性(EI)」の問題である理由
感情的知性(EI)とは、自分自身や他者との関わりの中で感情を認識し、管理する能力である。これは4つの中核スキル、すなわち自己認識、自己管理、社会的認識、関係管理に細分化できる。
ファンコートが説明していること、すなわち芸術を利用してさまざまな状況下で自分の感情をよりよくコントロールすることは、素晴らしく、かつ心地よい自己管理戦略である。自己管理は、持っているか持っていないかという特性ではない。それは能力であり、反復に非常によく反応するものだ。創造性を働かせることで、リスクのない環境で感情調整の力を大幅に強化できる。
この根拠は深い。調査開始時点でうつ病でなかった成人2148人を追跡調査したファンコートと同僚は、明確な用量反応パターンを見いだした。数カ月に1回、美術館、劇場、映画館に行くだけで、その後10年間にうつ病を発症する発症リスクが32%低下し、月に1回以上であれば48%低下することが示された。
今すぐ実践できるEI戦略、「創造の習慣」
創造的な活動に取り組むことを、健康的な食事や睡眠、運動と同じように、定期的な健康習慣として扱おう。以下の5つのステップが、その習慣づくりに役立つ。
・ニーズに合わせて創作の形を選ぶ
問題から距離を置く必要があるときは没頭できるもの、大きな感情を処理する必要があるときは表現力豊かなもの、自信が揺らいでいるときはスキルアップにつながるものを選ぼう。
・上限ではなく、下限を設定する
毎日15分取り組むことは、月に1回4時間取り組むよりも、結果的に大きな時間の積み重ねになる。通勤時間、昼休み、退勤後の最初の時間など、すでにある時間枠にこの習慣を組み込もう。
・目の前の制作や鑑賞に意識を深く集中させる
聞き慣れたBGMを流すのも効果的だ。注意を深く向ければ向けるほど、効果は高まる。
・より重いテーマに触れる
困難な感情を描いた芸術作品にあえて触れる時間を持とう。これは、将来の感情的な課題に対する「予行演習」を行い、リスクゼロの環境でレジリエンス(回復力)を築くための強力な方法だ。
・数カ月ごとに取り組む内容を入れ替える
目新しさは、物事を面白く新鮮に保ち、創造性を維持するのに役立つ。


