システム思考は、実際よりも複雑に聞こえるかもしれない。しかし、これを取り入れ始めるのに、エンジニアやストラテジスト、業務プロセスの専門家である必要はない。自身の仕事に、意思決定や問題解決、プロセスの構築、あるいは何かの仕組みを改善しようとする試みが含まれているなら、すでにシステムを扱っていることになる。
システム思考の本質とは、目の前のことから一歩退いて、それが周囲のあらゆるものとどのように適合しているかを問いかける習慣のことだ。筆者がまず勧める実践方法は、全体像を理解するために一歩引くこと、そのシステムが実際にどのように機能しているかを客観的に見極めること、そして小さな介入が大きな効果をもたらす場所を見つけること、という3つである。
ズームアウトする
ポッドキャスト番組『Lenny's Podcast』のエピソードの中で、ネットフリックス(Netflix)のチーフプロダクト&テクノロジーオフィサーであるエリザベス・ストーンは、システム思考を身につけるためのアドバイスとして「ズームアウトする習慣をつけること」を挙げた。私たちは大抵、目の前にある仕事に集中している。タスクをいかに完了させるか、課題をどう解決するか、あるいは成果をいかに向上させるかばかりを考えており、それが属するより大きなシステムについては考えていない。
ズームアウトすることで、自分の仕事がビジネス全体やその目標とどうつながっているかが見えてくる。それによって視野が広がり、規模や再利用性、インパクトといった要素を考慮できるようになる。そして、再び視野を狭めて目の前の仕事に集中するとき、その全体像(コンテキスト)がアプローチの指針となる。結果として、取り組んでいる仕事がビジネスの目標により合致したものになるのだ。
システムの実態を把握する
システムの「明文化された目的」は、システムそのものではない。システムとは、その実際の挙動によって定義される。したがって、ズームアウトした後は、システムをありのままに見ているのか、それとも「そうあるべき姿」として見ているのかを自問してほしい。これらは全く異なるものだ。後者の方がはるかに認識しやすい。なぜなら、いたるところに文書化されており、誰もがすでに合意しているからだ。
ギットクリア(GitClear)の2025年版『AI Copilotによるコード品質』レポートは、挙動と意図の乖離を示す好例だ。同社は、様々な大企業のリポジトリにある2億1100万行の変更コードを分析した。4年間で、リファクタリング(既存のコードの再利用)に関連する変更コードの割合は10%未満に減少した一方、コピー&ペーストされたコードの割合は8.3%から12.3%へと上昇した。これらの企業はいずれも、コードの保守性を重視していると主張するが、明文化された意図が「統合を優先するシステム」であるのに対し、実際の挙動は「重複」なのである。
システムの有効性を測る基準は、挙動と意図の間の「距離」だ。過去6カ月間にリリースしたプロダクトやサービスを1つ選び、「〜するはず」という言葉を使わずに、それが何を行っているかを説明してみてほしい。挙動のみに着目した場合、それは何をしているだろうか。次に、本来何をする予定だったのか(意図)を説明する。このギャップを埋めることこそが、最適化の目標であるべきだ。これによって、自分の仕事がシステムの中で果たしていると信じている役割と、実際に果たしている役割との違いが浮き彫りになる。
レバレッジポイントに集中する
あらゆるシステムにはレバレッジポイント(作用点)が存在する。これは、小さな変化が労力に見合わないほど大きな結果をもたらす場所のことだ。それを見つければ、わずかな介入であっても全体を動かすことができる。システムが意図した通りに機能しないときは、ここに集中すべきだ。システムが明確に見えれば、最も効果的なレバレッジポイントが呆れるほど明白になることもある。
寒い部屋にいて、暖をとるために暖炉のそばに座っている自分を想像してほしい。火を絶やさないよう、何度も立ち上がって薪を拾いに行く。やがて、窓が開いていることに気づき、それを閉める。すると即座に、部屋の熱が逃げにくくなる。暖かさが長持ちするため、資源(薪)を節約でき、エネルギーも温存できる(薪を取りに行く回数が減る)。その窓を閉めることこそが、このシステムにおける最も効果的なレバレッジポイントだったのだ。
レバレッジを探す意味はそこにある。目的は、システムのすべての部分に対してより懸命に働くことではなく、どの部分が実際に結果を左右しているかを理解することだ。より多くの努力を注ぎ込むことが正解の場合もある。しかし、制約を変更したり、ボトルネックを解消したり、上流の何かを修正したりすることで、その後の仕事が格段に楽になることも同じくらい多い。
システムを意識して構築する
これら3つの実践は、システム思考を始めるための有益な出発点となる。すべてのシステムの全体像を完全に把握できるわけではないが、システムに入り込むための有効な手段を与えてくれる。
目標は、一晩でシステム思考の達人になることではない。目の前にあるタスクの先を見通す力を養うことだ。なぜそのタスクが存在するのか。それは何に影響を与えるのか。意図した通りの成果を生み出しているか。自分の努力は実際にどこで効果を発揮しているのか。こうした問いを投げかけ始めることで、フィードバックループやインセンティブ、制約、ボトルネック、そしてシステムが時間の経過とともにどのように変化するかといった知識を学び、その土台を強化していくことができる。



