昨今、ニュースのヘッドラインをざっと見渡すと、気候変動に対する世界的な関心は薄れてしまったかのように感じられるかもしれない。その印象は一面において正しい。気候変動への懸念が完全に消え去ったわけではないが、メディアで取り上げられる機会は以前に比べて格段に減少している。コロラド大学の最近の調査によると、気候変動に関する世界のメディア報道は、ピークだった2021年から38%減少した。しかし、こうした相対的な静けさを事態の進展と誤認することこそが危険である。実際には、潜在的なリスクは今も拡大し続けているからだ。
この静けさの背景にはいくつかの要因があると私は考えている。新型コロナウイルスのパンデミックからロシアによるウクライナ侵攻に至るまで、ここ数年は重大な世界的出来事が世間の関心を独占してきた。さらに最近では、イランをめぐる情勢やホルムズ海峡の封鎖が、政策立案者やメディアの注目を集めている。同時に、一部の人々の間では、気候変動問題に対する「疲弊感」が生じているようにも見受けられる。また、欧州連合(EU)や米国をはじめとする複数の主要経済国において、気候変動政策から後退する動きが広がっている。そして最後に、エネルギーのコスト負担能力(アフォーダビリティ)と安全保障の問題が、エネルギーや気候、そしてネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への道のりをめぐる議論のあり方を一変させた。
しかし、気候変動という物理的な現実は、メディアの関心や政治的な優先順位によって変わるものではない。地球の気温は上昇し続けており、2015年から2025年までの期間は観測史上最も温暖な11年間となった。一方、2024年だけでも、自然災害によって世界全体で推計3200億ドル(約50兆円)の経済損失が発生し、その93%が気象関連の災害によるものだった。
近年、気候変動対策へのコミットメントを縮小した企業もある。例えば2024年には、必要なマイルストーンを達成できなかったとして、「科学的根拠に基づく目標(SBTi)」イニシアチブが239社をネットゼロのコミットメントリストから除外した。多くの企業が後退している今こそ、自ら立ち上がってリードしようとする企業にとって好機となる。
気候変動対策は確かな成果をもたらす
逆風はあるものの、私は依然として楽観的であり、私たちがすでに成し遂げてきた進展は、そう考えるに十分な根拠を与えてくれている。とりわけ、明確な目的を持って資本が投下されたときに何が可能になるかを証明してきた産業界においては、それが顕著だ。2025年の世界の年間再生可能エネルギー導入容量は16%増加して800GWに達し、2026年のクリーンエネルギーへの投資総額は約3兆4000億ドル(約531兆円)に達する見込みだ。
再生可能エネルギーは、もはやニッチな電源ではない。今や世界のエネルギーシステムの中核をなす存在だ。多くの市場で、太陽光と風力は最も安価な新規発電オプションに位置づけられている。これは排出量の削減に貢献するだけでなく、エネルギー安全保障を強化し、価格変動の激しい化石燃料市場へのエクスポージャーを低減することにもつながっている。
私たちの会社では、この変革の一翼を担い、テクノロジーを活用して低炭素で持続可能な未来の構築を支援していることを誇りに思っている。例えば当社は、ジョージア州の発電所において、水素を50%混焼した燃料の開発と実証実験に成功した。これにより、現代の経済や顧客が依存する信頼性を維持しながら、既存の発電インフラが大幅に排出量を削減できる可能性が示された。同様に、蓄電池、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、低炭素燃料における進歩は、本格的な脱炭素化に不可欠な技術がすでに実証され、実用化の規模を拡大しつつあることを示している。
こうした進展の結果、技術、政策、エネルギーシステムの現在の動向を踏まえると、かつて気候モデルで用いられていた最も極端な排出シナリオが現実化する可能性は極めて低いと見なされるようになっている。現在の取り組みは、2016年のパリ協定の目標を達成するには依然として不十分であるものの、重要な事実を証明している。すなわち、コミットメントが実行を伴うとき、有意義な変化は可能であるばかりか、すでに始まっているということだ。
企業は脱炭素化に向けて「あらゆる手段を尽くすアプローチ」を取るべきだ
移行が可能であることはすでに分かっている。現在の課題は、それを加速させることだ。そのためには、現実的で「あらゆる手段を尽くす(all-of-the-above)」アプローチが必要となる。単独でネットゼロを実現できる技術はなく、技術だけでも十分ではない。
ビジネスリーダーとして私たちは、政策立案者や規制当局に対し、気候変動対策と経済成長は相反する目標ではないと訴え続けなければならない。適切に進めれば、エネルギー移行はエネルギー安全保障を強化し、投資を呼び込み、雇用を創出し、産業競争力を高めることができる。ただし、その実現には、イノベーションが規模を拡大し、解決策が迅速に展開されるための適切な条件を整えることが不可欠である。
企業にとって、気候変動はもはや単なる環境問題ではない。戦略上、そして商業上の問題である。レジリエンス(回復力)、クリーンエネルギー、脱炭素化に投資する企業は、リスクを管理し、コストを削減し、新たな機会を獲得するうえで、より有利な立場に立つと私は確信している。ためらう企業は、事業の混乱、保険コストの高騰、サプライチェーンの不安定化、そして取り残されるリスクに直面する可能性が高い。
気候変動は、たとえ現時点でニュースのヘッドラインから外れていたとしても、いずれ政治とビジネスのアジェンダの最優先事項に戻ってくるだろう。これに対処するために必要なものはすべて揃っている。技術はすでに確立されている。資本の調達も容易になりつつある。そして、ビジネスとしても理にかなっている。今重要なのは、この課題が求める規模で、それらを実行に移すという私たちの意志である。



