友情を育むアプリ「Clyx(クリックス)」の創業者である英国出身のアリックス・ヴァン・デル・ヴォルムは、ハーバード大学で神経科学を学んでいた頃、金曜日の夜に友人と出かけようとすると「計画のコスト」がかかることに気づいた。
「キャンパスに誰がいるかを把握し、5人くらいにテキストメッセージを送って何かしたいか尋ねる必要があった」と彼女は説明する。「すると彼らからは決まって『いいよ、何する?』という返事が返ってくる。それから、ボストンで何が起きているかを調べなければならなかった。今夜上映されている映画はあるか、バーにDJは来ているか、といった具合にね」
それが面倒に思えるときは、代わりにNetflixを観て過ごすこともあった。若者が他者と交流する時間が過去に比べて劇的に減少しているという統計データを目にしたとき、彼女は孤独を感じているのが自分だけでないと気づき、もっと簡単に集まれる方法を作ろうと決意した。
彼女はダブルメジャー(二重専攻)で学んだコンピューターサイエンスのスキルを活かしてClyxアプリを自らプログラミングした。このアプリは、独自のアルゴリズムを用いて共通の関心を持つユーザー同士を結びつけ、ヨガ、語学交流、ボードゲーム、アートクラスなどのグループ活動を通じて、IRL(実生活、リアルな場)での出会いを提供する。
「家にいるのと同じくらい簡単に外出し、気の合う友人と時間を過ごせるようにすることが私たちの目標です」と彼女は語る。「そして多くの人にとって、それは新しい友人との出会いを意味することが少なくありません」
ヴァン・デル・ヴォルムは2020年11月に単独創業者としてアプリの開発を始め、2022年に学士号を取得した後にフルタイムで取り組んだ。2023年にアプリストアでClyxをリリースした。ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、サンパウロなどの都市に約50万人の月間アクティブメンバーを抱えるこの無料アプリは、8人のフルタイム従業員を擁し、2025年には140万ドル(約2億1900万円)の売上高を記録した。アクティブなコミュニティとの接点を求めるブランドとのパートナーシップを通じて収益を上げている。
マイアミに拠点を置くClyxは、2025年9月に1400万ドル(約21億9000万円)の資金調達を実施した。出資者には、リード・ホフマンのブリッツスケーリング・ベンチャーズ、Venmo(ベンモ)の共同創業者イクラム・マグドン=イスマイル、F1世界チャンピオンのニコ・ロズベルグ、サイモン・シネックらが名を連ねる。ヴァン・デル・ヴォルムがカンファレンスで、友情を促進するアルゴリズムにおいてオキシトシンをいかに考慮しているかについて講演した後、ホフマンの側近からアプローチを受けたという。同アプリは現在、サンディエゴやオースティンといった急成長市場に拡大しており、ナッシュビルやシカゴでの展開も準備中だ。
孤独の蔓延が世代を形作る
もっと楽しみたいと願う年齢でありながら、多くの若者たちが、友人を作るのがいかに難しいかを実感している。
ワシントン大学セントルイス校公衆衛生大学院の研究チームが今年発表した8カ国を対象とした調査によると、18歳から24歳の若者の半数近くが孤独を感じていると回答した。これは成人一般の10人中4人という割合と比較して高い数値だ。また、同調査では孤独感と、うつ病や不安障害との間に強い関連性があることが示された。
米国時間利用調査を分析したInstitute for Family Studiesによると、18歳から29歳の若年層は現在、週5.1時間を社交に費やしている。これはパンデミック中の2020年の最低値4.2時間から増加したものの、2010年の12.8時間からは依然として大幅に低い水準だ。
専門家によれば、パンデミックは孤立の触媒となったが、ソーシャルメディアやテクノロジーの使用増加も同様に影響しているという。世界保健機関(WHO)は2023年までに、孤独が国際的な健康上の懸念であると宣言し、社会的つながりを強化するための委員会を発足させた。2025年、WHO社会的つながり委員会は、人々を結びつけるコミュニティ活動などの戦略を提唱する報告書「From Loneliness to Social Connection(孤独から社会的つながりへ)」をまとめた。
「フレンドシップ・テック」の台頭
Clyxは、解決策の提示を目指す、小規模ながらも成長を続ける「フレンドシップ・テック」セクターの一部だ。マッチングアプリのBumble(バンブル)は、プラトニックな友人を求めるユーザーがプロフィールを投稿し、スワイプしてチャットを始められるBumble BFFを2016年に導入。2025年9月には独立したアプリ「Bumble for Friends」としてスピンアウトさせ、その後、新たな技術スタックを用いた無料アプリ「BFF」として再ローンチした。Bumbleの共同創業者兼CEOであるホイットニー・ウルフ・ハードは、アプリの発表時の声明で「孤独感や孤立感がかつてないほど高まっている今、ウェルビーイングのために自己愛と友情を優先することがこれまで以上に重要になっている」と述べた。
2024年創業のRealRoots(リアルルーツ)は、アプリベースの友情マッチングサービス向けに2025年9月に50万ドル(約7810万円)の資金を調達したが、有料モデルを採用している。会員が出会うための6週間にわたる厳選された対面アクティビティの費用として、289ドル(約4万円)を課金する。スタンフォード大学ビジネススクールを卒業した共同創業者兼CEOのドロシー・リーは、スタートアップ・アクセラレーターであるY Combinatorの企業プロフィールで「自分自身の人生で何度も切実に必要としたプロダクトだったからこそ、RealRootsの開発を始めた」と述べている。
Clyxのユーザーの大半は、大学を卒業して初めて、あるいは2つ目の仕事に就いている18歳から35歳の層で、新しい都市に移り住んできたばかりであることが多い。また、その大半は女性だ。
Clyxの調査によると、ユーザーは最初のマッチングから10日以内に出会うと友人になりやすいことが分かっており、アプリはそのプロセスを促すように設計されている。元スピンバイクのインストラクターであるヴァン・デル・ヴォルムは、「友人が明日のレッスンに登録した」ことを示すささやかなテクノロジーによる通知(ナッジ)が、受講生のモチベーションを高める様子を覚えており、アプリにも同様の機能を搭載した。
安全性を確保するため、各プロフィールが実在する人間のものであるかを確認する厳格な認証プロセスを設けているほか、すべてのイベントに「コミュニティリーダー」と呼ばれるホストを配置し、参加者の調整を行っているという。「1対1で誰かと会うことは絶対にない」とヴァン・デル・ヴォルムは言う。アプリはイベント終了後に体験調査を送り、また主催者が不適切な行動をとった参加者を報告できる仕組みも備えている。
友情に機械学習を応用する
ヴァン・デル・ヴォルムがアプリを開発する上で指針としたことの一つは、ハーバード大学での卒業論文のテーマであった「ディープニューラルネットワーク(深層ニューラルネットワーク)」の概念だった。これは複数の隠れ層を持つ人工ニューラルネットワークで、大量のデータからパターンを見つけ出すことができる。
「脳や私たちの思考プロセスを模倣したディープニューラルネットが、自動運転車を実現できるのであれば、いつか私がキャンパス内で誰と一番過ごしたいか、そして一緒に何をするべきかを正確に予測できるようになるはずだ、と考えたのを覚えている」とヴァン・デル・ヴォルムは振り返る。彼女は、同社の成功は、ユーザーが誰と何をしたいのかを正確に予測する能力にかかっていると確信した。
マイアミを拠点とする投資家のジャック・アインホーンは、彼女がアプリを開発中に教授陣からその話を聞き、シード資金として2万5000ドル(約391万円)を出資した。かつてソーシャルECプラットフォーム「Fancy」を創業したアインホーンは、毎年恒例のイベント「マイアミ・テック・マンス(Miami Tech Month)」でのテスト利用を提案。これが彼女にとって重要な学びの場となった。
ヴァン・デル・ヴォルムは、参加者同士を結びつけるためにアプリを使用するというアイデアを主催団体に提案した。彼女は大学入学前に銀行で働いて貯めたお金で航空券を購入し、現地へ飛んだ。マイアミ・テック・マンスがニュースレターでClyxを紹介したことでアプリの知名度は高まり、わずか6日間のうちに6000件のイベントが登録されたという。
ヴァン・デル・ヴォルムは1週間を費やしてユーザーへのインタビューを行った。最も大きな発見の一つは、ユーザーが既存の友人と集まるためだけでなく、新しい友人と出会うためにClyxを利用しているということだった。
「私にとって、それは当社の歴史において最大のブレイクスルーの一つだった」と彼女は語る。「ほとんどの人には、世界のどこかに電話をかけられる親友がいる。しかしそれは、同じ地域に住み、同じスケジュールを共有し、同じタイミングで同じことをしたいと思ってくれる友人が日常的に、継続的に身近にいることとはまったく異なる。そのとき、Clyxのミッションが明確になった」
ヴァン・デル・ヴォルムはアプリの初期バージョンを自身で構築することができたが、規模を拡大するにつれて、より優れたユーザー体験を創出する必要があることに気づいた。彼女は創業から約9カ月後、シード資金を投入してプログラマーとUXデザイナーを採用した。
パートナーシップを取り入れる
Clyxが軌道に乗るにつれ、イベントの主催者は集まりの収益を100%受け取ることができるものの、カップケーキや絵の具などの備品を購入すると、受け取る額以上の投資になってしまうケースが多いことにヴァン・デル・ヴォルムは気づいた。中には、それを継続して負担する余裕のない個人起業家もいた。
そこでClyxは300万ドル(約4億6900万円)を投じ、ブランドとイベント主催者をつなぐB2Bプラットフォームを開発した。ルルレモン(Lululemon)などのスポンサーは、主催者に対して1イベントあたり1000ドル(約15万円)を支払う。
「その目的は、主催者がより多くの収入を得て、サステナブルな起業家になれるよう支援することだ。彼らの情熱を、ストレスを感じることなく続けられる仕事にしたいと考えた」
現在、同アプリを通じて育まれた友情は100万件に上る。中には、アプリを利用する前の孤独感を明かすユーザーもいる。ヴァン・デル・ヴォルムがマイアミのコーヒーショップにいたとき、その都市に移り住んできたばかりの若い女性が近づいてきた。「母に『ただ家に帰りたい』とこぼしていた」とその女性は話した。彼女はアプリをダウンロードしたことで、その都市でもう一度挑戦してみようと決意し、エクササイズクラスに通い始め、そこで気の合う女性たちと出会ったという。「ここで最高の友人グループができた」と彼女はヴァン・デル・ヴォルムに語った。
ヴァン・デル・ヴォルムは、会社のダッシュボード上で新しい友情が次々と生まれるのを見るのも好きだが、彼女を支えているのはこうした1対1の出会いだという。「それだけで、すべての苦労が報われると感じる」と彼女は語った。



