デジタルアイデンティティ(デジタルID)は、実験段階からインフラへと移行しつつある。
ヨーロッパ、北アメリカ、ラテンアメリカの各地で、政府は市民がスマートフォン上に暗号署名された証明書を保持できるモバイルIDウォレットの導入を進めている。
これらの証明書は、書類のスキャンデータをアップロードしたり、生体データを第三者に明け渡したり、本人確認のたびに中央集権的なデータベースに依存したりすることなく、その人が本人であることを証明できる。
しかし、デジタルIDは、他者がそれを信頼できて初めて機能する。
「信頼」の課題
ウルグアイの市民がチリの病院、ブラジルの銀行、あるいは海外の航空会社のカウンターで証明書を提示したとき、検証者は2つのシンプルな問いに答える必要がある。すなわち、「この証明書を発行したのは誰か」、そして「それは今も有効か」だ。
単一の国内であれば、これらの問いは通常、国のシステムを通じて解決できる。しかし、国境を越える場合は、共通の「信頼インフラ」が必要になる。
ヨーロッパには、このためのモデルが存在する。共通の規制と「トラストリスト(信頼できる発行体の一覧)」インフラを通じて、公認の発行体を登録し、サービスプロバイダーはそれらの発行体が発行した証明書の真正性を検証できる。
ラテンアメリカには、これに相当する地域機関が存在しない。単一の政府、開発銀行、あるいは民間企業も、地域全体を対象とした信頼レジストリ(登録簿)を運営する権限を持っていない。
ウルグアイの電子政府・情報社会推進庁(AGESIC)と、デジタルID企業のBlerify(ブレリファイ)が解決に乗り出したのは、まさにこの課題だ。中央集権的に管理される地域データベースを構築することなく、国のデジタルIDを国境を越えて相互運用できるようにすることを目指している。
ラテンアメリカ地域の各国がデジタルIDシステムを立ち上げ、あるいは新たなグローバル標準に準拠した国家戦略を策定するなか、この課題は緊迫度を増している。もはや、政府がデジタル証明書を発行できるかどうかという段階ではない。それらの証明書が、発行した管轄区域の外でも信頼されるかどうかが問題なのだ。
BlerifyのCEOであり、米州開発銀行(IDB)で同地域初の多国間ブロックチェーンネットワークである「LACChain」の構築に長年携わってきた技術者のマルコス・アジェンデは、次の課題は相互運用性であると語る。
「私たちは皆、同じ標準、同じ技術を使っている」とアジェンデはインタビューで語った。「問題は、これらをいかにして国境を越えて相互運用できるようにするかだ。そのためにはトラストリストが必要になる。誰が証明書を発行したのか、それが失効していないかを誰でも検証できる公開レジストリだ。現在、ラテンアメリカにはそれが存在しない」
欠けているピース
技術的なコンセプトはシンプルだ。トラストリストとは、公認の発行体と証明書のステータスを記録した公開レジストリである。国境を越えたデジタルIDにおいて、それは組織的な信頼を示す共通の地図として機能する。検証者は、あらゆる国のあらゆる機関に接続する必要はなく、どの発行体が正当であるかを知るための信頼できる手段を必要としている。
ヨーロッパでこのモデルが機能しているのは、欧州委員会が加盟国間で共通のインフラを支える規制権限を持っているからだ。
「ヨーロッパでは、共通のインフラと共通の規制があるからこそこれが可能になっている」とアジェンデは話す。「ラテンアメリカには、そのような権限を持つ単一の組織は存在しない。一つの国や組織が、地域全体の信頼レジストリをコントロールすることはできないのだ」
ラテンアメリカ・カリブ海地域インターネットアドレスレジストリ(LACNIC)を共同設立し、現在はIDBの地域ブロックチェーンプログラムから発展したパブリック・パーミッションド(公開型・許可型)ブロックチェーンネットワーク「LNet」を統括するオスカル・ロブレス・ガライは、デジタルIDにおける信頼の課題は、かつてLACNICが解決するために設立された課題と構造的に類似していると指摘する。
「私たちは同じ問題、すなわち『信頼』に行き着く」とロブレス・ガライは言う。「すべてのデータを管理する単一の中央集権組織を信頼するか、さもなければ分散型データベースを構築するかのどちらかだ」
このインフラがなければ、ラテンアメリカでは国境を越えた電子署名の承認が10年以上にわたって停滞する原因となった、二国間協定への逆戻りを余儀なくされる恐れがある。
ウルグアイの解答
2025年、ウルグアイのAGESICとBlerifyは、まさにこの課題に対処するための実証実験に取り組んだ。
このプロジェクトは、カリフォルニア州陸運局(DMV)のデジタル化イニシアティブでも採用されているブロックチェーン「Avalanche(アバランチ)」と、「LNet」という2つのブロックチェーンネットワーク上にデプロイされたスマートコントラクトによって構築された、分散型の信頼レジストリである。
参加国はそれぞれ独自のブロックチェーンノードを運用し、独自の暗号鍵を保持する。これによりネットワークの他の部分と約2秒ごとに同期を維持するため、検証者が発行元の政府に直接問い合わせることなく、トラストリストの更新情報が素早く伝播する。
ネットワーク上のあらゆる場所にいる検証者は、発行国のシステムにアクセスすることなく、また中央の運営者を介することもなく、証明書の有効性を確認できる。
「第三者は証明書を検証するために、わざわざ発行元に確認しに行く必要がなくなる」とアジェンデは言う。「公開された分散型レジストリと照合して検証できるからだ」
AGESICのエグゼクティブディレクターであるクリスティーナ・スビジャガは、この実証実験をまとめたケーススタディの中で、その志を次のように表現している。
「国境で立ち止まってしまうようでは、どのようなデジタルIDもその真の価値を発揮することはない」
一般的なブロックチェーンIDプロジェクトとの違い
従来のブロックチェーンを用いたデジタルIDプロジェクトとは異なり、いずれのネットワークも個人データを保存しない。オンチェーン上に存在するのは「信頼のメタデータ」のみだ。具体的には、公認の発行体の識別子や公開鍵、そして証明書の失効ステータスである。
ここでのブロックチェーンの役割は、厳格に「調整レイヤー」としてのものに留まる。すなわち、単一の当事者が管理することなく、すべての国が読み書きできる共有レジストリだ。証明書自体は個人の手元に残る。
Avalancheの開発元であるAva Labs(アバラボ)の最高ビジネス責任者(CBO)であるジョン・ナハスは声明で、この設計は政府のデジタルIDインフラの第一原則であるべき考え方を反映していると述べた。
「デジタル証明書を国境を越えて機能させるために、政府が既存のIDシステムを置き換える必要はないはずだ。彼らに必要なのは、どの発行体や証明書が信頼できるかを確立するための共通の方法なのだ」
AGESICのケーススタディでは、この実証実験が対処する2つの追加的な構造的課題を挙げている。第一に、現在は政府のAPIから「はい」か「いいえ」の二者択一の応答しか受け取っていない民間部門の検証者が、レジストリに直接アクセスして独自のコンプライアンスルールを適用できるようになる。第二に、トラストリストのキャッシュバージョンを利用することで、発行元へのオンライン接続が利用できない国境検問所、病院、空港などにおいて、デバイスがオフラインで証明書を検証できるようになる。
グローバル展開へ
2025年11月、この実証実験は、ケープタウンで開催された「グローバルDPIサミット」において、デジタル公共インフラセンター(CDPI)が主催する政府ハッカソンで1位を獲得した。
アジェンデは、次のステップは国間の相互運用性をテストし、デジタルIDの公共財レイヤーを構築する広域的な実証実験であると述べた。
理想的には、これにより「米国、ヨーロッパ、ラテンアメリカの間の国際的な相互運用モデル」が構築されるという。すなわち、「各国が独自の主権的インフラを維持しながら、ブロックチェーンとスマートコントラクトによって相互接続を可能にする方法」だ。
ロブレス・ガライは、民間セクターが公共セクターの指示を待つことなく、このインフラの構築を支援していることに勇気づけられている。彼は以前にもこのパターンを目にしている。
「インターネットが開発された当時、プロトコルを構築したのは政府ではなく、個人や企業、大学だった」と彼は語る。
「ラテンアメリカの政府は蚊帳の外にいた。このデジタルIDを巡る議論も、同じステップを踏んでいる」
この実証実験が成功すれば、ラテンアメリカのデジタルIDインフラは、インターネットの大部分が誕生したのと同じプロセス、すなわち、単一の中央権力からではなく、共有されたプロトコル、相互運用可能なネットワーク、そしてその仕組みを信頼しようとする組織から生まれることになるかもしれない。



