米国では、個人が資産全体をファイナンシャルアドバイザーに預け、運用や税金、相続の助言に報酬を払う慣行が根づいている。銀行や証券会社の窓口で商品を選ぶのとは異なり、助言そのものが商品になる。この職業には全米で数十万人が就く。
ところが、アドバイザーが顧客と直接やり取りしている時間は、働いている時間の5割ほどにとどまる。残りの5割は、面談の準備と、記録や書類の作成といった事務作業に消えている。この5割こそ、AIが最も得意とする領域だ。
だからこそ市場は、AIがアドバイザーそのものを不要にすると受け止めた。2026年2月には、AIが税務の仕事に踏み込んだだけで、関連する銘柄が一斉に売られた。ところが現場で起きているのは置き換えではない。事務をAIに渡したアドバイザーの生産性が、かつてないほど高まっている。
約31億円を手にした21歳の創業者が、人間の助言を求めた
リティク・マルホトラは、2014年のサンフランシスコで、閉まる前の郵便局にたどり着こうと土砂降りの中を走った日のことを覚えている。当時21歳。カリフォルニア大学バークレー校を中退したマルホトラは、その少し前にクラウドストレージのスタートアップ、StreamをBoxに売却し、2000万ドル(約31億円)超を手にしていた。だが、そうして得た資産を管理するには、いまだに紙の書類をファイナンシャルアドバイザーに郵送しなければならなかった。
「文無しの大学中退者から、人生が変わるほどのお金を持つ身になったのです」と、現在34歳のマルホトラは言う。「両親は裕福な家の出ではありません。責任を持ってお金を扱えるよう、手を貸してくれる人を見つける必要がありました」。
当時は、ベターメントやウェルスフロントといったロボアドバイザーが、従来の対人アドバイスに代わる安価な自動サービスとして支持を広げつつあった。だが、扱いきれないほどの資産を突然抱えることになったマルホトラは、本人いわく健康上の危機に直面したときの恐怖にも似た不安に襲われた。投資家たちは、ファイナンシャルアドバイザーを探すよう勧めた。
資産運用の専門家100人超と話し、事務を任せるAI企業を立ち上げ
マルホトラは人によるアドバイスに価値を認めていた。しかし、その周りにある手続きは過去に取り残されているように見えた。その後の6年間で、彼は自分の担当者に加えて100人以上の資産運用の専門家と話し、彼らの仕事の多くを、紙の書類、互いにつながっていないソフトウェア、あちこちに散らばった面談メモが占めていることを知った。
AIが分析と記録を進め、アドバイザーが最後に確認
2021年、マルホトラはSavvy Wealth(サビー・ウェルス)を立ち上げた。裏方の仕事をより多く引き受けられるAIソフトウェアを、アドバイザーに提供するためだ。同社のAIエージェントは、顧客の投資内容、資産計画、面談履歴からデータを引き出し、ポートフォリオを分析し、資産計画のシナリオを試算し、記録を更新する。更新された記録は、アドバイザーが確認する。
Savvyには現在およそ150人のアドバイザーが在籍し、80億ドル(約1兆2500億円)超を運用している。2025年初めの10億ドル(約1560億円)強から大きく伸びた。PitchBook(ピッチブック)によれば、同社は過去5年間で1億ドル(約156億円)超を調達し、企業価値は2億1000万ドル(約328億円)と評価されている。
AIが税務に踏み込んだことで、ウェルスマネジメント大手の時価総額が急落
AIの発展は、ウェルスマネジメント(資産の運用に加え、相続や税務、資金計画までを含む富裕層向けの資産管理)を担ってきた既存勢力に警告を突きつけた。数十万人のファイナンシャルアドバイザーを雇い、330兆ドル(約5京1000兆円)超の資産を預かる大手各社は、このままでは時代に取り残されかねない。実際、カリフォルニアのフィンテック企業Altruist(アルトルイスト)が2月、アドバイザー向けのデスクトップ画面に組み込むAI税務プランニング機能を発表すると、上場する複数のウェルスマネジメント会社やプラットフォーム企業の株が売られ、時価総額は合計で1400億ドル(約21兆8000億円)以上も吹き飛んだ。〔Altruistはその後、推定50億ドル(約7800億円)でバンガード・グループに買収された〕。



