エンゲージメントのスコアは良好。離職率は低い。ダッシュボードはすべて「グリーン(安全圏)」を示している。しかし、まさにこの瞬間にも、極めて優秀な3人の部下が密かに履歴書を更新しているかもしれない。
これが、現在の労働市場に隠された真実だ。表面的な指標に安心し、自己満足に陥っている多くのリーダーが、まさにこれを見落としている。「大退職時代(Great Resignation)」が去り、「大残留時代(Great Stay)」が到来したことで、危険な思い込みが生じた。それは「離職率の低さは、健全な労働力を意味する」というものだ。実際はそうではない。多くの場合、従業員が不安を抱いていることを意味しているのだ。
米国の従業員の半数近くが、今から今後数カ月の間に新たな仕事の機会を探すつもりでいる。一方で、全国の自発的離職率は約2%と低い水準にとどまっている。彼らはまだ辞めていない。待っているのだ。
この数字は、人材を率いるすべてのリーダーを立ち止まらせるべきものだ。従業員の半数が、より良いオファー1つで職場を去る可能性がある。そして、そのオファーを最も受け入れやすい従業員は誰か。多くの場合、最も優れた仕事をしている人たちである。
なぜ優秀な人材が最初に去るのか
多くのエンゲージメントの枠組みが見落としている力学がある。優秀な人材は、しばらくの間、成果の低い組織にとどまる。なぜなら、それができるからだ。彼らは生産性が高く、評価されている。低調な市場では、急いで動く必要もない。しかし彼らは同時に、平均的な人材が見逃しがちな点にも注意を払っている。
説明責任が一貫して適用されていないとき、彼らは気づく。凡庸な同僚が優秀な同僚と同じように扱われているとき、彼らは気づく。キャリアに関する対話が具体的かつ継続的ではなく、曖昧で年に一度しかないとき、彼らは気づく。そして、もう十分だと判断したとき、彼らはまず会社に告げるのではない。LinkedInに告げるのだ。
Quantum Workplaceは端的にこう述べている。「説明責任と昇進が遅れると、最初に意欲を失うのは高い成果を上げる人材であることが多い」。最後ではない。最初なのだ。そして、転職コストが高く感じられる市場では、意欲低下は外から見るとエンゲージメントとまったく同じに見える。退職届が出されるまでは。
意識調査が抱える問題点
年次のエンゲージメント調査は、別の労働市場を前提に設計されたものだ。従業員が懸念を口にする意思を持ち、経営陣にそれに対応する時間があった市場である。現在、そのどちらも確実とはいえない。
人事コンサルティング企業Perceptyx(パーセプティクス)の従業員体験調査は、この不一致を端的に指摘している。会社への残留意向が高まる一方で、内発的動機が低下すると、「企業は、身体的には出勤しているものの、精神的には退職している(魂が抜けている)従業員を抱えることになる」。その結果、意識調査には「現職に留まる可能性が高い」と回答しながら、その30分後にはスマートフォンで求人情報を検索しているような従業員が生まれるのだ。
ギャラップの「グローバル職場環境調査 2026年版」によると、従業員のエンゲージメント率は20%と、2020年以降で最低の水準に落ち込んでいる。残りの従業員は、仕事に身が入っていないか、あるいは組織に対して不満を募らせ、足を引っ張る動きを見せているかのどちらかだ。もし自社の調査結果にそれが反映されていないなら、その調査は本来測定すべきものを測定できていない可能性がある。
問題は測定だけではない。タイミングの問題でもある。年次調査は3〜6カ月の死角を生む。集計データにシグナルが現れるころには、その人はすでに心理的には去っている。遅行指標を追跡しながら、それを先行指標と呼んでいるのだ。
離職リスクを引き起こす真の原因
ワーク・インスティテュートの「2025年定着率レポート」によると、2024年の離職の63%は防ぐことができたという。その原因はキャリアの停滞、マネジメントの失敗、ワークライフバランスの問題であり、給与や競合他社による引き抜きではない。つまり、組織がコントロールできる要因だったのだ。
特に優秀な人材については、きっかけは3つの領域に集中する傾向があると私は見ている。
1. キャリアパスの不透明さ:優秀な社員が自らの将来に向けた明確な道筋を描けないとき(昇進に3年もかかる、能力開発の対話が一度も行われないなど)、彼らは外部で次のステップを探す準備を始める。劇的にではなく、段階的に進めるのだ。
2. 管理職の質:2013年のギャラップの調査では、「チーム全体のエンゲージメントのばらつきの70%はマネージャーに起因する」ことが示されている。マネジメントの質が悪いと離職リスクは高まる。優秀な社員は、自分に投資してくれるマネージャーと、自分を単に搾取するマネージャーの違いを見抜いている。
3. 承認の遅れ:ギャラップとWorkhumanの調査によると、「マネージャーから少なくとも週に1回フィードバックや承認を受けている従業員は、61%がエンゲージメントを感じている」という。常に期待を上回る成果を出しながら、目に見える承認を受けていない優秀な人材は、不満を言わない。努力の水準を下方修正するか、去るのである。
退職届が出される前にすべきこと
これらに対応するために、新しいプラットフォームや大規模な施策は必要ない。必要なのは、マネジャーがより良く、より頻繁に会話すること、そして人事がマネジャーに尋ねるべき質問を提供することである。
いかなるマネージャーにとっても最も効果的な離職防止ツールは、形式的ではない、本質的なキャリアについての対話である。「最近どう?」といった漠然としたものではなく、「今後12カ月間で、この仕事をあなたにとってより魅力的なものにするためには何が必要か。また、その障害になっているものは何か」という問いかけだ。職場でこのような質問をされたことがある従業員は非常に少なく、またこのような問いかけをする訓練を受けているマネージャーも極めて稀である。
会話に加えて、次の3つは一貫して状況を動かし得る。
1. 目に見える説明責任:優秀な社員は、成果や規律に対する基準が一貫して適用されている環境を好む。成果を出していない社員がお咎めなしでやり過ごしている姿を目の当たりにすると、「努力しても無駄だ」というメッセージとして受け止めてしまう。努力は重要なのだ。組織の運営において、それがしっかりと反映されていることを示す必要がある。
2. 具体的な成長へのコミットメント:「ここであなたには将来があると考えている」といった曖昧なメッセージは雑音として受け取られる。期限のあるストレッチアサインメント(実力以上の課題の割り当て)、注目度の高いプロジェクトへの推薦、目指すべき明確な次のポジション。優秀な社員が本当に見ているのは、こうした具体的なシグナルだ。
3. リアルタイムの承認:年に一度の授賞式といったイベントではない。成果が出たその場での、タイムリーで具体的な承認に焦点を当てる。Slackでのメッセージ、チームミーティングでの称賛、経営幹部からの個人的なメッセージなどが考えられる。どのツールを使うかよりも、その場ですぐに行うことのほうが重要だ。
残された時間は思った以上に短い
現在、優秀な社員が会社に留まっているのは、転職市場の先行きが不安定であり、転職に伴うリスクが現実的に感じられるからにすぎない。しかし、その状況は長くは続かない。求人数は安定しつつあるように見え、AIの普及によって新たな職種も生まれている。2024年と2025年に守りの姿勢を取っていた転職候補者たちは、状況が好転すればすぐに動き始めるだろう。そしてその動きは、多くの企業が予想するよりもはるかに速いはずだ。
人材の流出を最小限に抑えられるのは、必要に迫られる前から、今まさに「人材定着(リテンション)」の基礎体力を培っている組織だろう。それはリスクが目に見えるからではなく、指標が穏やかであることとチームが健全であることは別物だと理解しているからだ。
エンゲージメント調査が教えてくれるのは、従業員が「前四半期」にどう感じていたかだ。しかし、最も優秀な社員は「来年」の意思決定をすでに進めている。この2つの時間軸のギャップの中にこそ、離職リスクが潜んでおり、優れたリーダーが今まさに手を打つべき領域なのだ。



