人類が排出する二酸化炭素の約3分の1は石炭が原因だ。ジョン・ケリー米国国務長官は、経済を先進国並みまで発展させるためには現在の石炭を現在の2倍となる15億トンまで増産する必要があるとするインド政府の主張を一蹴した。そうなると、2030年までにインドの二酸化炭素排出量は現在の2倍になるのだ。
インドは太陽光や風力、その他の複合電気エネルギーなどからの供給を増やす計画だが、そのためには欧米諸国からの財政援助が欠かせないという。一方で中国は、石炭依存から脱却し、原子力や代替エネルギーへシフトするという大胆な方針を打ち出している。
先進国は、開発途上国が取り組むクリーンエネルギーの技術投資に対して200億ドル(2.4兆円)の資金援助を表明しているとされる。民間も温暖化防止に向けて動き出している。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やFacebookのマーク・ザッカーバーグCEO、投資家のジョージ・ソロス氏などの大富豪がはじめたクリーン・エネルギー基金も、そのうちの一つだ。
パリのCOP21開幕に際しオバマ大統領は、「世界のほとんどの国々が気候変動の原因を作り出してこなかったということは十分認識しているが、今は歴史上初めて、だれもが気候変動による壊滅的な影響を感じている」と述べた。
最終的な目標は、今世紀末までに、産業革命前の気温と比べ2℃以内に温暖化を抑制することだ。それは可能なのだろうか?専門家の意見はきわめて懐疑的だ。人口増加と経済成長を考慮すると、産業革命前より3.6℃も気温が上昇すると試算する研究もある。
BPは、2035年までに世界の燃料消費は37%増加し、二酸化炭素排出量は25%増になると予測する。気候問題を専門とする科学者たちによると、その予測は、海水面の上昇や長期間にわたる干ばつ、天候による災害など人々の命に関わる状況をもたらすのに十分すぎる値だという。
そうした見通しは代替エネルギーへの転換を後押しする一方、よりクリーンに石炭を燃やすための投資を倍増させるチャンスととらえるものもいる。後者については異論もあるだろうが、2035年までに石炭が依然3文の1の電力供給源であり続けることを前提にすると、もっともな理論でもある。
これまでのところ、米国は温暖化問題の解決に向けて開発途上国へ手を貸すことのできる、絶妙の立場にいる。すでに中国とインドは、よりクリーンで効率的な石炭エネルギー生産技術への投資を加速している。そして、もし最先端の石炭生産市場が生まれれば、Southern Companyは石炭のガス化技術を売却する用意があるというのは、同社のトム・ファニングCEOだ。
ファニング氏によると、二酸化炭素が大気へ排出されるまえに封じ込めて埋蔵する技術設備を備えており、さらにはミシシッピ州のKemperプロジェクトで実施している油分回収技術も応用できるという。ファニング氏は中国と交渉中であるが、他の国々への進出も視野に入れている。しかしながら、それらの特殊技術は高コストかつ効果が実証されていないなど、様々な課題が残る。
二酸化炭素排出量の削減方法には、様々な選択肢がある。米国についてみれば、石炭エネルギーから天然ガスへのシフトが顕著であり、2005年時点と比較し二酸化炭素排出量は10%も削減された。
オバマ氏はパリで石炭に代わるエネルギーの活用へ支持を表明し、米国はそれらの議論をリードできると考えていたようだ。なぜなら、米国は不況から脱し世界の経済を再び牽引する立場にまで回復した間に、二酸化炭素排出削減にも成功したからである。経済成長を目指す途上国の間には、経済成長の実現と温暖化対策の両立への疑念が依然根強いが、オバマ氏は会議のなかでこう述べた。
「米国は、強い経済とより安全な環境の両立が可能であるということを証明した」。