長年、マーケターはデジタル上の露出度(ビジビリティ)を、検索順位やインプレッション数、トラフィック、クリック数によって測定してきた。現在、検索のプロセスにAIが組み込まれるようになり、筆者は新たな疑問を耳にするようになった。「ChatGPTは自社に言及しているか?」「グーグルのAIによる回答に自社は表示されているか?」「Perplexityは自社を推奨しているか?」といった問いだ。
これらは重要な問いである。しかし、見落としている問いが1つあると筆者は考えている。それは「自社のブランドがAIの生成した回答に表示されたとして、誰かの記憶に残るだろうか?」という問いだ。
企業がAIに言及され、推奨されたとしても、ユーザーには数秒後に忘れられてしまう可能性がある。だからこそ、マーケターはAIによる露出の先にある「記憶への定着(メモラビリティ)」について考え始める必要がある。
露出は第一歩にすぎない
筆者は25年以上にわたりデジタルマーケティングに携わってきたが、検索や広告における大きな変化が起こるたびに、変わらず胸に残っている教訓が1つある。それは「露出は重要だが、決して最終ゴールではない」ということだ。
筆者があるオンライン旅行代理店と協業した際、オンラインのトラフィックを前年比で40%、売上高を80%増加させた。しかし、筆者にとって重要だったのは、単にウェブサイトへの訪問者が増えたことではない。本当の価値は、その関心が顧客の行動とビジネスの成長に結びついたときに生まれた。
AI検索についても、筆者は同様の見方をしている。自社ブランドがChatGPT、Gemini、Perplexity、あるいはグーグルのAI生成結果に表示されているかどうかを知ることは有用だ。しかし、言及されていること自体は、自社が他社とどう違うのかを顧客が理解したかどうかを教えてはくれない。
AIアシスタントに、マーケティング代理店を5社推薦するよう求めたとしよう。もし、すべての代理店が「経験豊富」「革新的」「データ駆動型」「成果重視」と説明されていたら、5つの社名は得られても、その中から特定の1社を選ぶ明確な理由は見つからない。
5つのブランドすべてが露出を達成した。では、そのうちのどれかは記憶に残っただろうか。
顧客にとって記憶に残るブランドとは何か
筆者にとって、その基準はシンプルだ。AIの回答を読んだ後、顧客は「なぜその企業が他社と違うのか」を説明できるだろうか。
その違いは複雑である必要はない。むしろ、シンプルな方が良い場合が多い。特定の業界に特化している、明確な手法や独自の調査結果がある、あるいは強い主張を持っているといったことかもしれない。総合的な競合他社よりも、特定のタイプの顧客に優れたサービスを提供しているということも考えられる。
問題は、多くの企業が同じ言葉を使って自社を表現していることだ。「主要な」「革新的な」「信頼される」「成果重視の」といった言葉は好印象を与えるが、顧客にはそれほど多くのことを伝えていない。
AIシステムは情報を要約する。要約される前のポジショニングが平凡なものであれば、要約された後はさらにありふれたものになってしまう。AIが扱える具体的な材料を与える必要がある。
コンテンツに必要なのは優れた構造だけではない
筆者は、コンテンツを検索エンジンやAIシステムにとって理解しやすいものにすることを支持している。明確な見出し、直接的な回答、整理された情報はどれも有用だ。しかし、最適化自体が主要な目的になるとリスクが生じる。
もしすべての企業が同じようなFAQページを作成し、同じような「究極のガイド」を公開し、同じような質問にほぼ同じ方法で回答しているなら、技術的に最適化されているからといって、そのブランドが際立つわけではない。
筆者はデジタルマーケティングの世界で、この問題を一貫して目にしてきた。企業は時としてチャネルに集中するあまり、顧客のことを忘れてしまう。キーワードでそれを行い、次にソーシャルメディアのエンゲージメントでそれを行い、そして今、AIによる言及に対しても同じことを繰り返そうとしている。
優れたコンテンツは理解しやすいものであるべきだが、同時に、自社からしか生まれ得ないもの、つまり経験、データ、顧客のストーリー、独自の手法、得られた教訓、あるいは有益な見解を含んでいるべきだ。それこそが、人々の記憶に残る素材となる。
一貫したデジタル・アイデンティティを構築する
AIは単一のウェブページからだけで企業のことを学習するわけではない。ウェブサイト、レビュー、ビジネスプロフィール、メディアでの言及、インタビュー、SNSコンテンツ、そして第三者による言及のすべてが、企業がどのように理解されるかに影響を与える。
そのため、一貫性がより重要になる。これは、すべてのプラットフォームで同じ文章をコピー&ペーストすることを意味するのではない。企業に関する基本的なストーリーが、常に明確であることを意味している。
自問してみてほしい。
• 私たちは誰にサービスを提供しているのか?
• 私たちはどのような課題を特にうまく解決できるのか?
• 私たちは何で知られているのか?
• その主張を裏付ける証拠はあるか?
• 顧客は、私たちが自らを描写するのと同じように私たちを描写するだろうか?
どこで企業を見つけるかによって回答が変わってしまうようでは、AIシステムもブランドの明確な全体像を構築するのに苦労することになる。
「言及された回数」以上のものを測定する
AIによる露出の追跡は続けるべきだ。重要なプロンプトに対して自社がどのくらいの頻度で表示されるか、どの競合他社がその隣に表示されるか、どの情報源が引用されているかを知る必要がある。
しかし、それだけで終わらせてはならない。ブランドがどのように描写されているかに注目するのだ。自社が確立したいと考えている専門性と結びついているか? その描写は正確か? 回答に意味のある差別化要因が含まれているか? 自社ブランドを直接検索する人が増えているか? 見込み顧客が自社の事業をすでに理解した上で問い合わせてきているか? これらの問いは、AIによる露出がビジネス価値を生み出しているかどうかをより正確に教えてくれる。
検索の次のステップ
SEOは企業に「見つけてもらう」方法を教えた。そして生成エンジン最適化(GEO)は、AIが生成する回答の中で企業が「理解される」のを助けている。
筆者は、次のステップは「記憶に残る」ことだと信じている。AIは企業を潜在顧客の目の前に提示することはできる。サービスを要約し、競合他社と比較することもできる。しかし、企業に独自のアイデンティティを与えることはできない。それは依然として、自社の経験、見解、実績、そして市場において一貫して示し続ける姿勢からのみ生まれるものだ。
したがって、AIによる露出を検証する際には、単に自社ブランドが表示されているかどうかだけを問うのではなく、もう1つの問いを投げかけてほしい。「私たちは人々に、自社を記憶にとどめてもらうための理由を提供できているだろうか?」



