「人間は、自分と異なる免疫遺伝子を持つパートナーの体臭に引かれる」というよく知られた考えは、実際の研究に由来している。2022年に『Biology』誌に発表されたレビュー論文は、免疫遺伝子の情報をにおいとして伝達するメカニズム自体は、ほぼ特定されていると主張している。一方で、現在も議論の的となっているのは、これがヒトにおいて配偶者選択を左右している、と確実に言えるかどうかという点だ。2008年に『PLOS Genetics』誌に発表された研究が指摘するように、この問題に関しては、ヒトを対象とした先行研究の間で相反する結果が出ている。
においは主要な説明の一つではあるが、唯一の説明ではない。より単純な可能性として、機能的な要因も考えられる。肩関節のすぐ下にある腋は、1日に何千回も動く場所だ。そこでは、皮膚同士がこすれ合うが、腋毛があることで、皮膚の表面が互いに引っかかるのを防いでいる。また腋毛は、水分を逃がすのを助ける役割も果たしている。腋毛がなければ、水分は、腋のひだに溜まって、皮膚をふやけさせてしまうだろう。その両方の説明が同時に正しいと考えても、特に矛盾はない。
最後に、人々の腋毛に対する見方を一変させるような事実がある。ヒトの体には約500万個の毛包が存在するが、これは、我々と体格が近いチンパンジーに見られる数とほぼ同じだ。ヒトの系統で変化したのは、毛包の数ではなく、毛包が生み出すものの性質だった。我々の毛包は、体のほぼすべての部位で、明るい光の下でしか見えないような細く淡い毛を産生する。しかし、腋や鼠径部では、アンドロゲンの作用により、同じ毛包から太い毛が生える。
つまり、我々の多くが抱いている直感は、実態とはやや異なる。我々は体毛を「進化の置き土産」とみなし、滑らかな肌を「基本の状態」だと考えている。しかし生物学的には、滑らかな肌の方が新しい現象なのだ。脇の下は、古い仕組みが残っている数少ない場所の一つだが、それが残っている理由は、置き土産というより、依然として果たすべき機能があったからに他ならない。


