テスラが直面する量産の難関、機体開発にも高い壁
マスクの「10億台」という予測を思い出してほしい。テスラは計画の発表から5年を経た8月ごろ、フリーモント工場でModel S/Xの製造ラインを転用し、ヒューマノイドロボットOptimusの生産を開始した。だが、顧客向けの出荷は1台もない。1月にはマスク自身が、テスラの自社工場の中でOptimusが役に立つ仕事をこなしている例はないと認め、2025年に約1万台を出荷するという目標も達成できなかったと述べた。
2025年10月の第3四半期決算説明会でマスクはOptimusを「私たちがこれまで作った中で、量産を軌道に乗せるのが最も難しい製品です」と評し、ロボットの部品はすべてが新しく、まったく新しいサプライチェーンが必要になると付け加えた。
複雑なハードウェアを作らせれば世界屈指の企業が、ロボットの体を作るのは過酷だと言っているわけだ。
マッキンゼーのデータもマスクの言い分を裏づけている。アクチュエーター(actuator。関節を動かすモーターと減速機を一体にした部品)は部品表(BOM。製品を作るのに必要な部品と数量の一覧)コストの40〜60%を占め、ハーモニックドライブ(波動歯車装置。小型で減速比の大きい精密減速機)と精密ローラーねじはサプライヤーが極端に少数に偏っている。さらに、レアアース採掘の約69%と磁石加工の約90%を中国が握っている。中国のサプライヤーを使わずに高性能ロボットを作ると、部品表ベースで4万6000ドル(約718万円)のところが約13万1000ドル(約2044万円)かかる、とOpenMind(オープンマインド)は試算している。
実際のヒューマノイドから得られる学習データが、自社開発にも役立つ
だが、ここで起きていることはそれだけではない。実際のロボットを作らずに、優れたフィジカルAIを作るのは難しいのだ。
OpenAIは2021年には、十分なデータが集まらないという理由でロボティクスのプロジェクトを一度打ち切っていた。そのとき足りなかったデータを手に入れる最短の道が、自前のロボットを作って動かすことである。物理的なやりとり、失敗、その修正、そして結果。フィジカルAIを良くするには、そうしたデータがどうしても要る。ヒューマノイドロボットは製品であるだけではない。データ収集装置でもある。Schaeffler(シェフラー)の工場に自社のAEONロボット1000台を導入する契約を持つHexagon Robotics(ヘキサゴン・ロボティクス)は、そのことをよく知っている。
ロボット自身から得られる学習データの大きな利点は、そのロボットの感覚器がとらえた情報がまるごと一緒に付いてくることにある。何をしていたか、どれくらいの力で握ったか、何が動いたか、といった情報である。Hexagonのアルノー・ロベール社長が9月3日に筆者に語ったところでは、質の高いロボット学習データは欠かせない。
Figure AIのCEOブレット・アドコックも、2025年2月にOpenAIとの協業から離れた際に同じ趣旨の主張をしていた。「現実世界で身体性を持つAI(embodied AI。カメラや手足を備えた実機の中で働くAI)を大規模に成立させるには、ロボットのAIを垂直統合しなければならない。私たちはそう結論づけました。ハードウェアを外注できないのと同じ理由で、AIも外注できないのです」


