スティグマはビジネスの制約である。創業者はそのための戦略を必要としている
スティグマはマーケティングの問題ではない。それはビジネスの制約、つまり、女性の健康(ウィメンズヘルス)やフェムテック(FemTech)企業が資金を調達し、広告枠を購入し、銀行口座を開設し、最もそれらを必要としている顧客にリーチすることを阻む、目に見えない構造的な障壁なのだ。
この分野の創業者は、あるパラドックスに直面している。ヘルスケアにおける極めて大きなアンメットニーズ(未充足の需要)に対する解決策を構築しているにもかかわらず、製品の品質や市場規模とはまったく関係のない障壁に、いたるところでぶつかるのだ。これらは個別の不満ではない。ケッジ・ビジネススクール(Kedge Business School)准教授のネヴァ・ボヨヴィッチ(Neva Bojovic)氏、モナコ国際大学(International University of Monaco)助教授のパドマジャ・アルガデ(Padmaja Argade)氏との4年間にわたる共同研究の結果である。私たちは共同で、更年期障害、骨盤の健康、セックステック(sex tech)にまたがる米国発のフェムテック企業26社を調査した。その結果は、この分野のトップジャーナルの1つである『アカデミー・オブ・マネジメント・パースペクティブ(Academy of Management Perspectives)』に今年6月に掲載され、創業者が実際に反撃するための査読済みフレームワーク「スティグマを伴う市場における起業のための社会変革フレームワーク(Social Change Framework for Entrepreneurship in Stigmatized Markets)」としてまとめられた。
このフレームワークの核心的な知見は、スティグマとは単一の問題ではなく、一連の問題であるということだ。そして、そのいずれを解決するにしても、画一的な手引書(プレイブック)は存在しない。以下では、このフレームワークの概要と、市場でこれらのスティグマに直面している創業者に何が求められているのかを解説する。だがその前に、この研究がどのようにして始まったのかを紹介しよう。
背景:この研究が始まった経緯
今となっては前世のことのように思えるが、新型コロナウイルスが私たちの生活に与えた影響という現実を受け入れ始めた初期のころの話だ。一夜にして、日常のあらゆる部分がいつも通りではなくなった。食事、仕事、学校、自分や家族の健康管理、さらにはトイレットペーパーの確保に至るまで。何から始めればいいのか、どうやって日常の感覚を取り戻せばいいのか分からなかった。私はコンピューターの前に座り、新型コロナウイルスによって出張も対面での会話も(少なくともしばらくの間は)なくなるのだと実感したことを覚えている。
当時、2020年から2021年にかけては、女性の健康は現在のように主流の会話にはなっていなかった。議論のほとんどは、いまだに小さなグループ内や、成長しつつあったウィメンズヘルス関連のカンファレンス・コミュニティの中で行われていた。私は、このエコシステムの中で尊敬している人々、つまり創業者の友人、投資家、医療従事者、学者、そして支払手(医療費の支払い主体)に連絡を取り始めた。私の経験上、この分野にいち早く飛び込んだ人々は、私がこれまで出会った中で最もスマートで、クリエイティブで、解決志向の強いプロフェッショナルたちだった。私の仮説は、劇的な不確実性の時代を生き残り、繁栄するために、彼らが切実に求められているインスピレーションを提供してくれるのではないかというものだった。最初は月に数回の電話から始まったものが、何カ月も経つうちに週に何度も会話を交わすようになり、最終的には100エピソードを超える『Quotes from Quarantine(隔離生活からの引用)』というウェブシリーズへと発展した。すべての始まり:
2022年のいつごろだったか、戦略、テクノロジー、社会変革の交差点を主な研究対象とするケッジ・ビジネススクール准教授のネヴァ・ボヨヴィッチ氏と、モナコ国際大学助教授のパドマジャ・アルガデ氏から、共同研究の打診の電話を受けた。彼女たちは、私の対話が学術研究の基礎を提供できると考えたのだ。パンデミック期における非公式な会話として始まったものが、徐々に発展し始めた。最終的に私たちは、更年期障害、骨盤の健康、セックステックの分野にまたがる米国のフェムテック企業26社を対象とした私のインタビューの一部に焦点を当て、2020年から2025年の間に実施された追跡インタビューや、業界の専門家に対する数十件の追加インタビューでこれを補完した。また、企業のウェブサイト、報道、政策文書などのアーカイブデータも収集した。ボヨヴィッチ博士もアルガデ博士も、学術研究や出版が進むペースは極めて遅いと私に警告していたが、その警告があってもなお、多くの査読と検証を経て、この分析作業の結果がようやく発表されたのが、4年後の今年6月だったことには驚かされた。この共同研究の成果は、分析論文「スティグマを伴う市場におけるシグナルの診断(Diagnosing the Signals in Stigmatized Markets)」として、『アカデミー・オブ・マネジメント・パースペクティブ』に掲載された。
女性の健康(現在では、女性にのみ、主に、あるいは異なって影響を及ぼす疾患と定義されている)の分野で働く非常に多くの人々が、「お役所に歯向かう(大きな権力に立ち向かう)」ような瞬間に直面していることが、痛いほど明らかになった。これは、創業者が自らのメッセージをソーシャルメディアに浸透させ、オーディエンスを啓発することだけに、エネルギーの大部分を割かなければならなかったことを意味する。私も同じような障壁に直面したことがある。あらゆる年齢やライフステージの女性の性的興奮、性欲、満足度を向上させることが臨床的に証明されている特許取得済みのオイルとエキスのブレンド製品「ゼストラ(Zestra)」の広告を100のメディアチャンネルで承認させようとしたものの、そのうちの95のチャンネルから拒否されたのだ。Dameの創業者であり、女性の健康分野のパイオニアであるアレックス・ファイン(Alex Fine)氏も、女性の性の健康とウェルネス製品の広告を承認させるために、ニューヨーク市都市交通局(MTA)を提訴しなければならなかったときに、同じような苦難を経験した。なぜ訴訟を起こしたのか。Dameが掲載を拒否された同じ壁に、勃起不全(ED)治療薬の広告はすでに並んでいたからだ。
センター・フォー・インティマシー・ジャスティス(Center for Intimacy Justice)のジャッキー・ロットマン(Jackie Rotman)氏や、CensHERshipのチームによる素晴らしい取り組みからも明らかなように、こうした経験は単発の逸話ではなく、構造的なものである。これは、単に1社や2社だけに起きている(起きていた)ことではなく、多くの企業で起きていることなのだ。ある創業者は私たちにこう語った。「時代遅れで、本質的に性差別的な広告規制によって、私たちのストーリーを共有することを妨げられている状況では、私たちのミッションを十分に遂行することはできません」。その障壁は広告の枠をはるかに超えて広がっていた。ある成人向けコンテンツ・プラットフォームの創業者はこう振り返る。「ビジネス用の銀行口座の開設を認めてくれるアメリカの銀行を1つ見つけるまでに、4年かかりました。PayPalは私たちの成人向けコンテンツを扱ってくれませんし、Stripeも無理です」
未充足の需要をビジネスの機会にしつつも、資金、メディアチャンネル、流通へのアクセスを制限する障壁に直面するというパラドックスの中で、創業者はどうやってビジネスを成長させればよいのだろうか。すべてのチャンネルでの広告掲載や、決済プラットフォームへのアクセスが製品によって阻まれている中で、創業者はどうすれば存続可能なビジネスを構築できるのだろうか。ある起業家が語ったように、「FacebookやInstagramで広告を出せなければ、ベンチャーキャピタル(VC)から、どうやってビジネスを拡大するつもりなのかと問い詰められます」。見かけ通り、それは極めて困難であり、起業家たちは二重の任務に直面している。つまり、成長と生存に集中すると同時に、ターゲット顧客にメッセージを届けるためだけに、社会変革を推進しなければならないのである。
社会変革フレームワーク
「私たちが発見したのは、スティグマは単一の問題ではなく、実際には複数の問題から成り立っているということです」と、この研究の筆頭著者であるボヨヴィッチ博士は語る。「セックステックにおいてモラル(道徳的)なスティグマに直面している起業家は、更年期障害においてトライバル(部族・集団的)なスティグマに直面している起業家とは、まったく異なる障壁にぶつかります。手引書は、その原因(ソース)に一致していなければなりません」
この洞察は、私たちが作成した、スティグマの発生源を社会変革に結びつける『スティグマを伴う市場における起業のための社会変革フレームワーク』の基礎となっている。スティグマの発生源によって異なる4つの明確なメカニズム、すなわちタブーの打破、正常化、リフレーミング、無害化が働いていることが、非常に明確になった。
タブーの打破
タブーの打破とは、スティグマを伴う問題についてオープンに語り、知識のギャップを埋めることを意味する。ある創業者が強調したように、彼らは1つの目標、すなわち「更年期のタブーを打ち砕くこと」を中心に設計されていた。
正常化
正常化とは、その問題を人間の経験における日常的で一般的な側面として位置づけることだ。「特定の状態や病気がいかに一般的であるかについて、意識を高めるよう努めています」と別の創業者は語った。
リフレーミング
リフレーミングとは、スティグマを伴う対象そのものではなく、現状維持を続けることによって個人や組織に生じる金銭的コストなど、より広い文脈へと会話を移行させることだ。例えば、ある企業は大人のおもちゃ(セックストイ)について語る代わりに、「センサー群を搭載したスマート・バイブレーター」と説明している。
無害化
無害化とは、解剖学的特徴、疾患、身体の部位に関する正確な議論を阻むスティグマに対して、フィルターをすり抜けるために設計された遠回しな表現(婉曲表現)、意図的なスペルミス、あるいは過度に医学的な言語を用いて対処することだ。例えば、マーケターは「尿失禁(incontinence)」の代わりに「骨盤底疾患(pelvic health disorders)」と言い換えるかもしれない。
勝者たちは行動を起こす
最も強固なベンチャー企業は、単に言葉を変える以上のことを行った。そのリーダーたちは、構造、実践、ナラティブ(語り)、そして感情という4つの領域にわたって行動した。彼らは、臨床的証拠とパートナーシップを通じて信頼性を築いた。尊厳と使いやすさを保証するために、製品やサービスを再設計した。これまで無視されてきたユーザーを肯定し、その存在を認めた。そして、孤立を連帯と情報に置き換えるコミュニティを創り出した。
起業家としての行動の限界
最も強力な創業者であっても、厳しい限界があることを認めている。起業家は、機関に圧力をかけ、代替チャンネルを構築し、公的な言語を拡大することはできるが、単独でスティグマを解体することはできない。プラットフォーム、小売業者、投資家、支払手、そして政策立案者が多くのルールを定めているからだ。これらの機関が基準を不均等に適用すると、創業者は通常のビジネス機能を実行する権利を勝ち取るためだけに、限られた資源を費やすことになる。
「起業家たちは並外れた働きをしていますが、彼らの製品が女性の身体を対象としているというだけの理由で、銀行取引、広告、流通への基本的なアクセスを求めて戦わなければならないような状況は避けるべきです」とボヨヴィッチ博士は言う。「起業家としての行動だけでは、スティグマを解体することはできません。本当の変革は、他のすべてのビジネスが当然のように享受しているインフラへの非差別的なアクセスを、政策立案者が保証したときに訪れます」
スティグマは現状維持(ステータスクオ)を糧に繁栄する。明らかに、現状は現在のところ女性の健康にとって最善の利益をもたらしてはいない。この研究に参加した企業や創業者、そしてこの分野に広く携わる人々が証明したのは、彼らはそれらを必要とする人々に製品やサービスを市場に届けるために、今後も「お役所に立ち向かい」続けるということだ。



