何十年もの間、プライベートジェット(プライベート・アビエーション)の利用は、究極の贅沢品と見なされることが多かった。
富と特別感を目に見える形で象徴するもの、というわけだ。
しかし、今日の多くの超富裕層(UHNW:純資産3000万ドル(約46億8000万円)以上)にとって、その捉え方は本質を外している。なお、米国には世界の超富裕層人口の約40%にあたる約20万人の超富裕層が存在する。
このサービスがもたらす真の価値は、時間の節約とストレスの排除にある。
プライベートジェットを利用すれば、乗り継ぎや保安検査の列、空港での遅延に悩まされる煩わしい1日を、旅行者に合わせてカスタマイズされた直行便の旅へと変えることができる。
これは、自由になる1時間1時間に大きな価値を置く起業家やビジネスオーナーにとって、特に価値がある。彼らにとって、最大の制約は時間だからだ。
「人々がプライベートジェットを利用する理由は、まさにそこにあると断言できる」と、ジェット・リンクス(Jet Linx)のエグゼクティブ・チェアマンであるジェイミー・ウォーカーは筆者に語った。「贅沢を求めて利用しているのではないと思う。純粋に時間を節約するためだ。それ以外に理由はない」
時間は究極の贅沢となる
プライベートジェットの費用は、大半の旅行者にとって依然として手の届かないものである。しかし、超富裕層は必ずしも、民間航空会社のファーストクラスのチケットとプライベートジェットの費用を比較して評価しているわけではない。彼らが比較対象にするのは、節約できる時間の価値、あるいはプライベートジェットを使わなければ失われていたであろう機会の価値なのだ。
プライベートジェットを利用すれば、経営者は1日に複数の拠点を訪問したり、民間便の運航が限られている目的地に赴いたり、あるいは出先でもう1泊する代わりにその日のうちに帰宅したりすることができる。家族連れであれば、乗り継ぎをなくし、総移動時間を短縮することで、短期の旅行も現実的な選択肢になる。
ウォーカーは、プライベートジェットを単なる道楽ではなく、ビジネスツールとして位置づけている。「これは贅沢をするための決断ではない」と彼は言う。「目的地に移動する必要があるからこそ下す、財務上の意思決定なのだ」
超富裕層が支出先をますます厳選するようになる中で、この切り分けは重要性を増している。彼らは効率性のために大幅に多くの費用を支払うことをいとわないが、それでも自分が何を購入しているのか、そしてそれが十分な価値をもたらすのかを見極めようとする。
必要なのは「機体の所有」ではなく「利用する権利」
航空機を所有すれば、スケジュールなどを最大限にコントロールできるようになるが、パイロット、メンテナンス、保険、燃料、格納庫の確保など、多くの費用と責任も伴う。多くの顧客は、それらのコストを正当化できるほど頻繁に飛行機を利用するわけではない。
ウォーカーによると、航空機は理論上、年間約800時間飛行できるが、一般的なジェット・リンクスの機体オーナーの利用時間は、年間わずか200〜300時間にとどまるという。ジェット・リンクスは個人や法人が所有する航空機を管理し、その空き時間をジェットカード・プログラムを通じて提供している。
このビジネスモデルは、航空機の維持費を削減したいオーナーと、飛行機を購入することなく確実な利用手段を確保したいメンバーという、相互補完的なニーズを持つ2つのグループを結びつけている。
「私たちはこれらの航空機を所有していないため、アセットライトな経営をしている」とウォーカーは語る。「私たちは航空機を管理し、オーナーが使用していないときに、それを実質的にジェットカードという形でチャーターとして貸し出しているのだ」
これは、ラグジュアリー消費におけるより広範な変化を反映している。富裕層の間でも、求める成果が得られるのであれば、所有するよりも利用する権利に対価を支払う傾向が強まっている。目的は、新たな資産を増やすことではない。時間を節約することの価値がフライトのコストを上回る瞬間に、利用できる航空機を確保することなのだ。
また、ジェットカードは、個別にチャーター便を予約するよりも予測可能性が高い。ウォーカーによると、ジェット・リンクスのプログラムは、確実な予約保証、固定の時間料金、そして保証された安全基準という3つのコミットメントを中心に構築されているという。
ウォーカーによると、ジェット・リンクスにおけるジェットカードの売上は、前年比で約60%増加した。同氏は、この成長の一因として、無駄なオプションや機体の所有に費用をかけることなく、確実な利用手段を求める、コスト意識の高いプライベートジェット利用者が増えていることを挙げている。
家族層が重要な顧客群に
プライベートジェットの利用は伝統的に、法人の出張と密接に結びついていた。しかし、ビジネスで初めて利用した起業家たちが、それを家族の生活にも取り入れ始めるにつれて、その傾向は変化しつつある。
ジェット・リンクスには、ビジネスとプライベートの両方で移動のニーズを持つ、たたき上げのビジネスオーナーが集まる傾向があるとウォーカーは言う。彼らは自身のビジネスとスケジュールを自らコントロールしているため、旅ごとに状況を評価できる。民間便の便数が多い都市への日常的な移動には民間機を利用する一方で、子供連れの旅行や、へき地への移動、あるいは予定が変更できない場合などには、プライベートジェットの利用を正当化するのだ。
「顧客は当然、ビジネス目的で当社を利用している」とウォーカーは語る。「しかし、私たちの顧客の属性を考えれば、ビジネスから一歩引いて、家族のためにプライベートジェットを利用し、家族を乗せて移動することも可能だ」
家族にとって、そのメリットは客室の快適さだけにとどまらない。プライベートジェットを利用することで、乗り継ぎをなくし、別荘などの最終目的地に近い小さな空港を利用できるようになる。これにより、小さな子供を連れての旅行の煩わしさが軽減される。そして何よりも、家族が一緒に有意義に過ごせる時間を増やすことができる。
これが、新規需要の重要な源泉として家族連れが浮上している理由の一端を物語っている。富裕層が、大変な家族旅行を解決する実用的な手段としてプライベートジェットを一度体験すれば、それは単なるビジネス用のツールではなく、彼らの旅行の選択肢の一部となるのだ。
ラグジュアリーのより実用的な定義
だからといって、プライベートジェットの費用が安くなるわけではない。しかし、ラグジュアリーの定義は、コントロール、利便性、そして「時間を取り戻す能力」へと移行しつつある。
今日の超富裕層にとって、最も賢明な購入とは、航空機そのものを所有することではないかもしれない。最も時間が必要とされるその瞬間に、状況に合わせた適切な航空機を確実に利用できる権利を手に入れることこそが、最もスマートな選択なのだ。



