筆者はこの1週間で、まったく同じ会話を5回も繰り返した。相手は異なるリーダー、異なる業界だったが、切り出しの言葉はすべて同じだった。
「これ以上の意思決定を下す前に、AI戦略を明確にする必要がある」
そして毎回、この相談の電話がかかってくるのは、すでに実証実験(パイロットプロジェクト)が始まった後なのだ。
ここまで重なると、もはや偶然ではない。これは一つのパターンだ。そして、もしあなたが今、企業のリーダー層にいるなら、あなた自身もその状況に陥っている可能性が十分に高い。
リフォームの罠
現在、多くの大企業におけるAI導入の現状は次のようなものだ。すなわち、建築家(設計士)を入れずに、異なる施工業者によって1部屋ずつリフォームされていく家のような状態である。
進捗を示すプレッシャーにさらされ、また新たなテクノロジーへの期待に駆られた個々のチームが、実証実験を立ち上げた。迅速で、低コストで、効果測定もしやすい。経営陣は初期の成果を大いに喜んだ。それを受けて、さらに多くの実証実験が続き、その数は膨らんでいった。そして今、率直に現状を見つめ直すと、6つの異なるチームに6つのチャットボットが存在し、その大半がほぼ同じことを行い、互いの存在すら知らないという状況になっているのではないだろうか。どのツールを何のために信頼すべきかを誰も決めていないため、社員は文書を3つの異なるAIツールに順次通して処理している。そこにあるのは、勢いという衣をまとった「収穫逓減」にすぎない。
個々のプロジェクトは、単体で見ればどれも筋が通っていた。キッチンのタイル、ゲスト用の浴室、地下室の改装。しかし、家全体の設計図を描いた者は誰もいなかった。その結果、電気配線が増築部分と適合せず、家全体をフルリフォームする以上の費用をかけたにもかかわらず、大した成果は得られていない。ここでの罠は、リフォームしたこと自体ではなく、建築家なしでリフォームを進めてしまったことにある。
なぜこれが繰り返されるのか
実証実験は素早く実行できる。数週間で立ち上げ、KPIを算出し、経営陣に「ご覧ください、我が社はイノベーションを起こしています」というスライドを示すことができる。実証実験は目に見える活動を生み出すため、進歩しているような感覚を与えてくれる。
一方で戦略づくりは、時間がかかり、より厄介だ。異なるインセンティブ、タイムスパン、成功の定義を持つ人々の間で足並みを揃える必要がある。そして誰かが「本当に人間が担うべき部分はどこで、機械に任せるべき部分はどこか」という耳の痛い問いを投げかけなければならない。しかし現在、ほとんどの組織は、純粋な焦燥感、競争上の不安、あるいはFOMO(取り残されることへの恐怖)からあまりにも急速に動いているため、その問いを完全にスキップしてしまっている。
その結果、誰も設計していないテクノロジー投資のポートフォリオができあがる。それは単に、自然発生的に膨れ上がっただけなのだ。
同時に行われていない3つの会話
ほとんどの組織において、AIに関する議論は3つの階層で同時進行しており、それらの階層間で対話が行われることはほとんどない。
その一つが、現場で実証実験を行うチームだ。彼らは業務に深く入り込み、ツールを試し、何が有用かを学んでいる。ワークフローを理解し、本質的な知見を生み出しているが、彼らが行っているのは「部分最適」であり、「全体最適」ではない。先ほどのリフォームの比喩で言えば、彼らは専門の下請け業者だ。家の中の異なる部屋で、それぞれの下請け業者が、その場所だけで機能する資材や施工方法を選んでいる状態である。
もう一つの階層が、経営陣(Cクラス)だ。彼らはマクロな目標、収益の拡大、新規市場の開拓、労働力の変革、競争優位性の確立といった大局的な視点に焦点を当てている。彼らはAIがそれらの目標に寄与することを望んでいるが、現場で起きている実際の実証実験からは何階層も離れた場所にいることが多い。リフォームで言えば、彼らは「施主」にあたる。施主は、リフォームを迅速かつ効率的に終わらせることだけを望んでいる。
そして中間に位置するのが、双方からのプレッシャーを感じているビジネスリーダー(現場の責任者)たちだ。彼らは上層部に進捗を示しつつ、現場の実態を管理しなければならない。この対話において最も重要な存在であるにもかかわらず、そのために必要なリソースや権限が最も不足しているのが通常だ。これらのリーダーは、施主を満足させつつ、下請け業者をコントロールしようと奔走する「元請け業者」のような役割を担わされている。
これら3つのグループが足並みを揃えていない場合、戦略は生まれない。得られるのは、誰も同じ一文で説明できないような「実証実験の寄せ集め」だけだ。
代わりにすべきこと
その解決策は、6カ月もかかるような全社的な戦略策定プロセスではない。経営陣はそこまで待てないし、それが完了する頃にはテクノロジーはすでに変化してしまっている。
求めるべきは、従来型の戦略策定よりも迅速に動き、かつ実証実験の評価よりも深く踏み込む「ミドルアウト」アプローチだ。
1. 中間にいるビジネスリーダーから始める。経営陣でも、実証実験の現場チームでもない。ワークフローの要求とビジネス上のプレッシャーの両方を理解している階層からスタートするのだ。対話を重ね、外部の視点を取り入れながら、まずはポジショニング・ステートメント(方針書)の作成に着手する。「ここでAIが自社に独自の価値をもたらすと確信し、ここにおいては人間の判断が不可欠であると定義する」というものだ。
2. そのドラフトを上層部へ持ち上げる。作成した戦略的方針の草案を経営陣に提示する。それは一方的なプレゼンテーションのためではなく、共同のワーキングセッションを行うためだ。3時間、あるいは6時間をかける。これに必要な資金調達や収益性への影響について「財務」の視点を得る。これが現在の従業員や社内の人的資産にどのような影響を与えるかについて「人事」の視点を得る。そして、真の目標がどこに設定されているのかについて「ビジネス」の視点を得る。経営陣にその方針を練り直させ、欠点を指摘させ、軌道修正を行わせるのだ。
3. 現場の実証実験にフィードバックする。それらをつぶすためではない。それは大きな間違いだ。現場のチームはそれらのツールに多くの時間と労力を費やして学んできており、その知見は貴重な資産である。しかし、戦略の方針ができた今、それらの実験を体系的に位置づけることができる。戦略ロードマップの上にマッピングするのだ。きれいに適合するものもあれば、進化が必要なものもあるだろう。また、優先順位が低いと定義された課題を解決しているにすぎないことが判明するものもあるはずだ。これにより、現場のチームは初めて明確な指針を得ることができる。
すべてのリーダーが答えるべき問い
ビジネスリーダーがミドルアウト・アプローチを推進している一方で、上級管理職や経営陣が、次のAI投資、次の実証実験、あるいは次のベンダー交渉に臨む前に、必ず答えを出しておかなければならない重要な問いがある。
「どこで人間を必要とし、どこで機械を必要とするのか」
抽象論や哲学的な議論ではない。自社独自の具体的なワークフロー、ターゲット市場、そして独自の価値の定義においてである。その答えは組織ごとに異なるだろう。しかし、財務、人事、オペレーション、マーケティング、戦略などの部門を超えて共同でその答えを導き出すプロセスこそが、制御不能なリフォームの迷宮を、意図して設計された確かな建造物へと変貌させるのである。
バラバラに寸断されたAI導入は、実証実験の進め方の問題ではない。ポジショニング(位置づけ)の問題だ。そして、その事実にいち早く気づいた組織こそが、より優れた導入を実現し、より急速に成長を加速させることができるだろう。



