どこからが「市場操作」になるのか
大統領が正当なエネルギー政策を発表し、原油価格を動かしたとしても、それだけで市場操作にはならない。歴代大統領は制裁、戦争、関税、戦略石油備蓄(SPR)の放出、掘削政策、外交合意など、商品価格を動かし得る決定を行ってきた。発表を正しく予測した人が利益を得たという事実だけでも、不正行為の証明にはならない。
非公開情報を利益に使えば問題の性質が変わる
問題が格段に深刻になるのは、機密扱いの事前情報を知る人が個人的な金銭利益のために情報を利用した場合だ。市場を動かす発言自体が意図的に作られたり、誇張されたり、不適切な時刻に発表されたりして、金融上の利益を得る目的で価格を動かす計画の一部に組み込まれれば、古典的な市場操作に近い性質を帯びる。
商品市場は何をしても法的に許される無法地帯ではない。米国商品先物取引委員会(CFTC)の規則180.1は、商品、先物、スワップに関連する操作的・欺瞞的な計画を禁じ、重要な事実について虚偽の陳述や誤解を招く陳述を故意もしくは無謀に行うことや、商品市場に影響する詐欺的・欺瞞的行為への関与も禁じている。
私は今回、そのような行為があったと主張しているわけではない。トランプ本人や関係者が8月28日の発表前に原油関連のポジションを構築したことを示す証拠を、現在まで見ていない。ここで説明しているのは、不正の存在ではなく事前情報を利益へ変えられる機会が存在するという点である。
大統領のSNS投稿が、数秒で世界市場を動かす時代
大統領は以前から市場を動かす力を持っていたが、現代の通信手段は影響力を大きく増幅した。現在では記者会見も、用意した演説も、広く一般に向けた事前告知もないまま、大統領が数行の文章を数千万人へ直接発信でき、世界各地の市場は数秒で反応し得る。
トゥルース・ソーシャルの新サービスが重大な倫理面・法律面の懸念を呼んでいる理由も、情報が届く時間差にある。料金を支払う顧客は、トランプの投稿を含め、市場を動かす可能性がある情報へ一般利用者より速くアクセスできる。
WTIでは1日100万件超の先物・オプションが取引される
原油市場では、イラン、ベネズエラ、ロシア、サウジアラビア、戦略石油備蓄、ホルムズ海峡に関する1つの発言だけで将来の供給見通しが変わり、数十億ドル(数千億円)規模の資金が商品市場を動き得る。CMEグループはWTIを世界で最も流動性が高い原油先物契約と説明しており、先物とオプションを合わせて1日100万枚を超える取引が行われている。
重大な政策発表を一般市場より先に知るのは、政府内の閣僚や職員だけではない。交渉に関わる人や合意に参加する政府外の関係者が内容を知る場合もあり、数十人から数百人が市場を動かし得る情報の一部を持つケースさえ考えられる。関係者の大半が適切に行動していることは疑いないとしても、金融市場は誘惑そのものが存在しないという前提では成り立たない。
8月28日の発表は、情報格差が持つ金銭的価値を具体的に想像しやすい。原油市場が閉じる前に、大統領が「米国はベネズエラの埋蔵量650億バレルに対する支配権を得た」と発表し、ガソリン価格が大幅に下がると国民に伝える予定だと知っていたとする。トランプの評価を自分自身が信じるかどうかは本質ではなく、何百万人もの市場参加者が間もなく聞く内容を先に知っていること自体に金銭的価値が生じ得る。


