Forbes JAPANは今年、J-CATを共催に迎え、新たなアワード「Destinations of the Year」を創設。工芸、食、自然、風習——各地で新たな観光価値を創造する30の事業者を選出、審査項目に沿って、特に象徴的な5つの取り組みを賞としてピックアップした。
近年、各地に「クラフト×宿」が増えているが、そのパイオニアが富山県・井波にある。アワード審査会でその循環設計が高く評価され、「CIRCULAR BUSINESS賞」に選ばれたBed and Craft。彼らが文化を未来につなぐビジネスモデルとは。
中国・西安市の田舎町に、世界的に評価されるジェイドバレー・ワイナリーがある。オーナーは建築家の馬清運。かつて集落をあげて大学に送り出され、建築家として成功した彼は、その資金で地元にワインという新たな文化産業を生み出した。
「建築家も頼まれるだけでなく、経済を生めるのか」
2009年に上海にわたり、馬に師事していた山川智嗣はその姿に刺激を受け、帰国後、地元富山で“職人に弟子入りできる宿”Bed and Craftを創業した。「建築家が事業を始めたら終わり」とも言われたが、山川はそのほうが依頼主に寄り添えるようになると考えた。
日本一の彫刻のまち、井波を選んだのも、中国での経験からだ。当時まだ既製品が少なかった現地では、職人が都度、アイデアをかたちにしてくれた。「東京は、アイデアがあってもつくり手がいない。職人と協業できる場所を探しました」。
井波は人口8000人に対して約200人の彫刻師がいる。観光では金沢と白川郷の中継地のようにあつかわれていたが、「工芸のまちに泊まる」ことが新しい需要を生むと読み、16年、宿を起点に工房や飲食店を巡る分散型の“まちやど”を開業した。
接続と循環を生む仕組み
10周年の今春、7棟目をオープン。いずれも、地域の作家と協働し、空間自体を作家の表現する場とする「マイギャラリー制度」をとる。宿泊者が室内の作品を購入することもでき、その売り上げが作家の次の創作につながる仕組みだ。それを支えるのが、物件ごとに異なるオーナーが所有し、Bed and Craftが運営を担い、レベニューシェアするというビジネスモデル。
「経営者や富裕層の資産ポートフォリオにおいて、今後、文化的な資産が重要になるのではと仮説を立ててオーナーを募っています。工芸を資本としてとらえ、接続と循環を生む。Bed and Craftは職人と応援者をつなぐインフラです」と山川は言う。
運営で細心の注意を払うのが職人との関係だ。職人がワークショップ業者になっては、弟子入りの価値をもたない。彼らの創作時間を尊重している。
最近うれしい出来事があった。初期から協業する彫刻家・田中孝明がパリで個展を開催したのだ。「井波彫刻史上初でしょう。過去に宿泊したゲストも多く駆けつけてくれました」と山川。このごろは、外国人や女性の弟子入りも増えて、受け入れ態勢も変わってきた。こうした小さな変化が折り重なりながら、文化は少しずつ、次の時代へ受け継がれていく。
山川智嗣◎富山県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。2016年、「お抱え職人文化を再興する」をコンセプトに、ものづくり職人と新たな価値を創造するクリエイティブ集団・コラレアルチザンジャパンを創業。



